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現代アートをちょこっとディープに楽しむ!Ouma流6つのアート鑑賞ポイント

  • 4月 10 / 2017
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現代アートをちょこっとディープに楽しむ!Ouma流6つのアート鑑賞ポイント

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世界の中でも美術館に行く人が格段に多いのが日本。美術館は有料ですが、ギャラリーは基本、無料ですよ!ギャラリーでは、これから出ていく作家のみずみずしい作品が見られますし、ぜひ多くの人に足を運んでもらいたいなと思います^^
なんとなく楽しく見ればそれで充分なのですが、ちょっとポイントを絞ってみると、アート作品鑑賞はさらにおもしろくなる。今日は私が作品を見ている時のポイントをご紹介します。

1)筆致を見る

最初のポイントは「筆致を見る」です。「筆致を見る」はそのとおり、画面に乗った筆の運びを見るということです。丁寧に見ると、描かれた順番が分かったり、意外とすみずみまできれいに塗られてなかったりが分かります。

こちらはバルセロナのギャラリーで見たYAGO HORTALさんの作品(部分)です。大ぶりの筆でさまざまな色が混じりあいながら躍動的に流れています。特に大きな作品となると、線を引く時に迷いがあればいびつな形や止まった痕が残ってしまいます。そういうのがないということからも、作家の経験値、技術力の高さが伺えます。カラーバランスも非常に美しく、素晴らしい作品ですね。

ニューヨーク、DC Moore GalleryからValerie Jaudonさんの作品。画面を覆う白いライン。幾何学的なパターンに見えますが、辿ってみると1本の線なのだと分かります。さらに一歩近づいてみると、線を構成している筆あとが見えます。無数の筆のストロークによって、パターン的なラインに立体的な動きが出ている。忍耐力のいるラインからは、作家の一歩踏み込んだ発想の豊かさと、作品に賭ける想いが伺えます。

参考リンク  YAGO HORTAL Valerie Jaudon(DC Moore Gallery)

2)素材を見る

次は作品に使われている「素材」に注目です。油彩や水彩、アクリルなどの画材以外にペットボトルが使われていたり、絵の具のチューブが使われていたり、最近の作品はさまざまな素材が使われています。ペイントかと思ったら広告の切り抜きだったり、使われている素材を見るのもアート鑑賞のおもしろさの1つです。作品に斬新さを加えようと思って新しい素材を使う、ということは作家の立場からすると選択肢の一つなんですが、実際にやってみると、変わった素材で作品をつくるのはなかなか難しい。思うようにいかないことばかりで、結局、モノにならなかったりする。珍しい素材で作品を構成するというのは、その裏に作家の試行錯誤があるということなんですね。

こちらはニューヨークのギャラリーJack shainman galleryで見たYOAN CAPOTEさんの作品。遠くから見ると分かりませんが、近づくとびっくり、こちらは釣り針。海のような画面ですが、波の模様を作っているのは釣り針なんですね。作品によっては、釣り針をメディウムに埋め込むだけでなく、1つ1つピンで留めてるようなものもあり、非常に手間がかかっていることも分かります。大の大人が釣り針いっぱい集めて真剣に画面をつくっている様子を想像してください。この画面の向こうには、作家のそういう姿があるわけです。きっと指先がひっかかって「イテっ!」てなったりしてるんです。画面の後ろにある作家のひたむきな姿が作品に現れてきている。そこもアートの素晴らしさです。

こちらもニューヨークからAndrea Rosen galleryのElliott Hundleyさんの作品。正面から見るとなんか小さい丸がいっぱいついてるような、という気がするんですが、こちらは虫ピンがみっしり刺さっています。虫ピンには広告の切れ端のようなものがさらにささっています。

画面には広告が貼られているものもありますが、虫ピン以外にもいろんなものが埋め込まれています。近くで見ても遠くで見てもおもしろく、画面全体の圧力がある。近づいて丁寧に見ていくと、「あ!ここにこんなのがある!」という発見があり、宝探しをするようにいつまでも楽しめる作品です。

ニューヨークの303galleryからMATT JOHNSONさんの彫刻作品。「えっ?彫刻?」そう、ふつうの段ボールって思っちゃうこちらはなんと木でできています。発泡スチロールなんか本当に軽く見えちゃうし、木からつくってるとはとても思えないほど。技術力もそうですが、彫刻の対象となっているものがamazonの箱だったりシェイクだったり。こちらの作家さんは2007年には森美術館での展示にも参加しています。

参考リンク  YOAN CAPOTE(Jack shainman gallery) Elliott Hundley(Andrea Rosen gallery) MATT JOHNSON(303gallery)

3)作品に参加する

次はちょっと大型作品にフォーカスを当ててみます。作品全体の世界観に自分も参加する。ギャラリーという作品に囲まれた空間だからこそのアートの楽しみ方です。

こちらはギャラリー展示ではないですが、ニューヨークの歩道「ハイライン」に設置された全裸のおっさん(正式なタイトルはSleepwalker/夢遊病者)です。制作したのはTONY MATELLIさん。あまりにリアルなので、本当にヘンタイさんなのかと思い、周りの人は近づかないように最初は遠巻きに。彫像だと気づいた人が喜んで写真を撮り始めると、急に人が集まってワイワイし始めます。この作品に関わって、驚いたり笑ったり、話題にしたり、人のコミュニケーションが生まれる。作品と一緒につくる世界観も楽しめる素晴らしい作品です。ちなみにパンツも布ではなくてブロンズでできてます。

私の好きなギャラリーの一つ、ニューヨークのJames Cohan Galleryで展示されていたYinka Shonibare MBEさんの作品がこちら。カラフルな装丁に包まれた本を取ろうとしている謎の女性。展示室を巡っていると出会う彼女の存在感と、見上げるほどに広く積まれた本棚と。個々の作品だけでなく、ギャラリー全体が1つの作品になっており、自分自身も作品の一部として展示に参加しているような感覚を覚え、物語の中に入り込んじゃったような、世界観を体験として持ち帰れる展示になっています。

キュレーターの仕事も含めて素晴らしいと感じたのがこちらの作品。John McLaughlinさんの「Total Abstraction」。作品に対するように椅子が配置されていて、画と1対1で向き合う空間が与えられています。正面から画と向き合う。色と面だけの画と向き合っているうちに、鑑賞者の中に生まれてくる「感覚」。純粋で正直な作品たちは、展示全体としても心地よいリズムがあり、すがすがしい後味を残してくれます。

参考リンク  TONY MATELLI Yinka Shonibare MBE(James Cohan Gallery) John McLaughlin(LACMA)

4)作家の時系列を追う

ある程度作品を見ていくと好きな作品、そうでもない作品が出てきます。「いいな!」と思った作品と、別の場所でまた出会えた時には、「こんなにがんばってるんだ、こんなところまで来てるんだ!」と作家の成長を喜ぶ楽しみが出てきます。
好きな作家が出てきたら、その作家がこれまでにつくってきた作品の系譜を見るのもアート鑑賞の魅力の1つです。

こちらは書家、山本尚志さんの作品です。図形の中に文字を描く、というスタイルで2016年には大和プレス編集で作品集「フネ」を発表。作品は左上から右下に向かって、マシーン→チーズ→はいざら→フタの順に描かれています。「図形の中に文字」という基本スタイルは変わりませんが、画面全体から受けるイメージは全く違います。こういうところから、作家が新作を次々と生み出す力があること、挑戦し続ける姿勢があることが伺えます。
作家の作品が時系列に解説付きで並んでいる展示などを見ると、たとえばゴッホの作品は印象派に出会ってから非常に明るくなっているなど、作品スタイルの変化とともに、作家が何に惹かれ、何にショックを受けたのか、心の動きが見えてきます。印象派の作家たちは、日本の浮世絵に出会ったおかげで「印象派」としての作品スタイルを生み出しています。アートの歴史がいろんなところで絡み合って、目の前の作家の作品につながってきている。長いスパンで作家や作品を見ていくというのは、歴史に触れるおもしろさもあります。
山本尚志さんに影響を与えた作家は井上有一。作品がニューヨーク、メトロポリタン美術館にも展示されている日本の書家です。高みを目指し、チャレンジし続ける作家を初期から見ていられるというのは、それだけでワクワクしますね^^

参考リンク  山本尚志 2004-2016作品集「フネ」 Hisashi Yamamoto(Yumiko Chiba Associates)

ちなみに作家として言うなら「時系列を見る」というのは、作家の将来性の予測でもあるので、怖い部分でもあります。つまり、その作家が今後も挑戦しつづけるかどうかが分かってしまう。そこそこ売れるようになって、もうこのスタイルでいいや!っていう作品をつくり始めたら、それもちゃんとバレちゃうってことです、作家のみなさん、気をつけましょう!笑。

5)時代背景を想像する

次はひと昔前の作品から、作品そのものの作られた時代背景を想像しながら作品を見ていきましょう。

こちらはニューヨークMOMAのHenri Matisseの作品です。フォーヴィスムの作家として知られるマティスのやわらかな線は、今では非常に高い評価を受けていますが、マティスが生まれたのは1869年。この時代のヨーロッパのアートは新古典主義、ロマン主義といわれる時代から、アカデミックアートの時代に移り変わっていた時期です。高い技術力をもった作品が「良し」とされていた時代に、マティスの作品が出てきたわけです。

↑つまり、こんな感じ。左が「素晴らしい」の時代に、右。ふつうに見たら、ふざけてるのかって思っちゃいませんか?雑に描いていると。技術がないのを適当にごまかして作ってるんじゃないかと。
良い作家は時代の100年先を見ると言われています。「は?」と思う作品に出会ったら、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。これまで「良い」とされてきた作品って本当に良かったのかなって。もしかしたらふざけて見えるこの作品は、時代に挑戦しようとしてるんじゃないかなって。彼らがこういう挑戦をしてくれたおかげで、その後の作家は、左も右も、両方の表現が許される土壌ができました。私がどちらかの手法を取るとしたら、大きな批判を受けることなく、両方ともつくることができます(物まねと言われる可能性はありますが)。時代の常識に挑戦して作品と向き合ってきた作家たちは、その後の作家たちの制作の幅も広げてくれたのです。
ちなみに、本当にふざけてるだけの作品もありますが、そういうのは作家のこれまでの作品の系譜や、作家自身のコメントからちゃんと露見します笑。

1887年に生まれたデュシャンは、Mattという架空の名を使って美術館に既製品の便器を出そうとした(実際には展示されていない)ことで有名な作家です。20世紀でもっとも影響を与えた作家という評価もあるほど、影響力の強い作家です。現代アートの作家は、コンセプトが重要だとも言われていますが、そもそも作品にコンセプトが必要になったのはデュシャンの影響です。デュシャン1人によって、世界中の作家が「なんで作品をつくっているのか?」という制作意図を求められることになりました。これまで画面の中にとどまっていた作品が、概念の構築にまで及んできたということです。既成品を作品とし、作家が「選ぶ」ことによって新しい思考を創造するとしたデュシャン。作品によって、そもそもアートってなんなの?という命題を突き付けられているようです。
上記の写真はロサンゼルスの美術館、The Broadに展示されていたSherrie Levineの「Fountain(Buddha)」。

参考リンク Sherrie Levine(The Broad)

6)作品解説を聞く

さて、最後のポイントは「作品解説を聞く」です。作品を見るだけでは分からない、作者の隠れた意図を知ると、作品がさらに輝きを増して心に残ります。ギャラリーはオープニングに行くと、作家本人と話すことができますし、そうでなくてもギャラリストに、美術館ではツアーに参加すると話を聞くことができます。自分が作家の場合には、他の作家の思考回路、制作過程を知ることは自分自身の制作にとっても非常に勉強になります^^

直島の杉本博司さんの作品「海景」シリーズです。世界の海が瀬戸内海に流れ込むように水平線を杉本さんの目線に合わせて展示されています。世界各国の空と海を1対1になるように撮り続けた作品で、人間の見られる「普遍性」、永遠に変わらないものを表しています。空には雲1つなく、海にも船や人の映りこみがありません。船や雲は変わるものですが、空と海は在り続ける。雲がなくなるまで何か月もその土地で待ち続けることもあるようです。こうしたストーリーを聞いてから作品を見直すと、作品制作にかける作家の執念が作品からにじみ出てくるのが分かります。

気づいてなかった作品に気づけるというのも作品解説を聞くおもしろさ。ニューヨークのMOMA PS1には、床に埋め込まれた作品や、壁に色がついている作品があります。ふつうに歩いていると気づかずに見逃してしまう作品。一度、自分で見回ってから改めてツアーに参加すると、自分がいかに周りを見ずに歩いているかというのも思い知らされ、楽しくなります。
写真左は床の小さな穴に埋め込まれた映像作品で、穴から女性が何かを叫んでいます。右の作品は地下のボイラー室の壁にある作品。色をつけるだけでなく、通常の壁とは違う材質のものが張り付けられています。キャプションも貼られているのですが、ボイラー室自体が茶色っぽくさびた感じになっていて、作品という認識ができずに通り過ぎてしまいがちです。

参考リンク 杉本博司(Gallery TAGBOAT) MOMA PS1

最後に一つ、逃げ口上を。私はまだまだ勉強中の1アーティストにすぎません。こちらの記事に書かれている内容には間違った解釈もあると思いますが、そのへんは大目に見つつ、アートっておもしろいな!と思った方はさらに自分で学びを深めてみてください^^
私自身は、アートというのは、唯一すべての人に開かれた世界だと私は思っています。目が見えなくなっても、腕がなくなっても、病気になってもできる。有名になったアーティストというのは、その功績をもって、死後もずっとずっと世界に貢献しつづけるわけです。そういうのを、私は素晴らしいなと感じています^^
また、自分がアーティストとして立ってみると、今もなお作品と真摯に向き合いつづけるアーティストたちの純粋さが作品を通じて感じられるようで、その全てを心から尊敬する気持ちになるのです^^


みじんこは、アートがほんとに大好きです!ヽ(=´▽`=)ノ

みじんくん と みじこちゃん

「アートっておもしろいよー。」
「いっぱい見たいよっ!」

mijinconbi

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