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獣医師を現代アート作家に変えた12の言葉たち

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獣医師を現代アート作家に変えた12の言葉たち

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2011年に臨床獣医師を辞めたものの、その後なにをしたいかなんて何も決まってなかった。したいことなんて何もなかった。何かになれればいいと思いつつ、何をしたらいいか分からない。そういう不安だけがあった。
漠然と線を引いていただけだった私が、今はフィンランドでアート制作をしている。どうしてここまで来られたのだろう。私をアーティストにしてくれた12つの大切な言葉たちを、ここに振り返りたい。

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「勉強しろよ!」2011年

ほとんど怒鳴られましたね、この時は。美術関係者から言われた一言です。歴史に名を残すような著名アーティストも知らずにアーティストぶるなと。
過去にどんな作家がいるかを知ること。その人と同じことを主張しながら、その人よりも弱い作品しかつくれなければ、私の作品はマネと思われ、すぐに消えていくのです。
他の作家を知ることは、自分の作品について考え直すことにもつながります。

「力のない作品はずっと掛けておくと自分から『片づけてくれ』って言い出す」2011年

書家・井上有一を見出した美術批評家、海上雅臣氏の言葉。氏は誰かから作品を受け取ると、ギャラリーの書斎にずーっと掛けておきながら見続けるのだと言っていた。私が持っていった作品も、井上有一作品の隣に掛けてくれていた。
「あなたの作品はそう言い出さないね」
氏はそう言っていた。
今の自分には、まだ自作の良し悪しがすぐにつかないことがある。だから見る。何度も振り返って見返す。早い作品は1週間で飽きがくる。ツマラナイと分かる。ツマラナイ理由はちゃんと言えるので、そのうちにつくる前からこうしたらダメなんだ、と分かるようになってきた。
これからもずっと、見返しつづける。

「売れるかどうかなんて誰にもわからないよ。それでも、やるかどうかなんじゃない?そういう覚悟がまだできてないと思う」2011年

STORYS.JPでも書いた「31歳で獣医をやめなんとなく絵を描き始めてから家賃0円のクリエイターズシェアハウスに受かるまでの話」にも出てくる言葉。アートなんて不安定なことはやりたくなかった。確定的な未来が好きで、絶対大丈夫なことをやっていたかった。
道半ばでのたれ死ぬとして、それでもやるかどうかだ。

「これはぜんぜんダメ。これならやらないほうがいい」2012年

こちらも美術批評家、海上雅臣さんの言葉。2013年に氏が主宰するウナックトウキョウで個展を開催したが、途中経過を見せた時に言われたところ。
「なんだろうね、ぜんぜんダメだよ。大きくしてダメということは、あなたの絵は大きい絵に向いてないのかもしれない」
ギャラリー全部を絵で覆う和紙まで用意してもらい、制作場所としてギャラリーの鍵を9ヶ月間貸し出してくれたにも関わらず、容赦ないダメ出し。
ただ、この言葉のおかげで改めて作品について考え直し、その後、まったく絵が変わった。私自身がどうしたらいいのか分からなかったのに、絵は変わったのだ。作品について振り返らせる言葉は作家を育てる


Ouma個展「自己受容と自己治癒の美術」ウナックトーキョー(東京)2013

「使ってる画材について考えたことある?考えたことないなら、一度考えてみなよ」2013年

ウナックトウキョウでの初個展の紙を用意してくれたのが、世界紙文化遺産支援財団の紙守さん。ギャラリーの壁を計測し、少し余裕を持って大きめの紙を1ヵ月かけてつくってくれた。「良い墨と和紙を使えば、作品は1000年もつよ」と教えてくれた。
当時、私は普通のペンでしか絵を描いたことがなく、使う画材のことを考えたことはなかった。ペンを使ってたのは、身近にあって使いやすかったからだ。
「色が消えてしまってもいい作品だ、というならそれでもいいけど、考えたことがないなら一度考えてごらん
そう言われてから、なぜこの画材を使うのだろう、この画材にはどういうストーリーがあるのだろう、と画材の種類だけでなく、その素材のバックグラウンドにまで考えを巡らせるようになった。

参考リンク  世界紙文化遺産支援財団 紙守

「ギャラリーで作品を売らないというのはプロとしてみなされない」2013年

2013年12月に行われたアートコンペ「ARTLABO X 2013」のファイナル展示でアートディレクターさんに言われたこと。
「ギャラリーっていうのは作品を売る場所だから。そこに出しておきながら作品を売らないというのはプロとしてみなされないよ」
このコンペは、ニューヨークへの往復航空券が副賞になっていて、ファイナル展示で私の隣で展示してたのがキングコング西野亮廣さんだった。
2017年現在、このアートディレクターさんは日本橋小伝馬町にギャラリー「JINEN GALLERY」を構えている。2011年には、アートコンプレックスセンタートーキョーで開催の「ギャラリーを仕事場にする4週間」に一緒に展示参加していたインスタレーション作家でもある。

参考リンク  JINEN GALLERY

「インスタレーション作家はどんな状況に置かれても、柔軟に対応できないといけない」2013年

こちらも「ARTLABO X 2013」から当時アートディレクターだったJINENさんの言葉。海外での展示はまったく予想外のことが起こることがある。「会場がぜんぜん狭かった」「必要な備品が用意されていなかった」不測の事態が起きても、それに対して対応できる柔軟性がなければいけない。たとえ持って行った自作をすべて使わないという選択をすることになっても、その場に即応しろ。
事実、ロシアでの展示ではインストール時間が1時間だった。なのにお茶に誘ってくるロシア人。手伝ってくれたスタッフが床一面の大型作品をゲシゲシ踏みつけつつ引っ張りまくったので、新聞でできた作品はインストール中にすでにビリビリに。もともとそういうことも予測して「破けていい作品」として考えていたので、「作品」自体に影響はなかった。
何が起こっても、柔軟につくり変えて「作品」を仕上げる。
この言葉は今でも常に傍らに置いている言葉で、そのおかげで作品発表の瞬間まで、作品について考え抜く癖がついた。


Ouma個展「彼女からの手紙には「Yes」とだけ書かれていた。」アートリーグギャラリー(サンクトペテルブルグ、ロシア)2016

「好きな作家を聞かれてシャガールしか出てこないと、ビギナーとしか思われない」2013年

2013年に初めてニューヨークに行き、ギャラリーをまわっていた時に、ギャラリーオーナー(その人は自分のことをアートディーラー(画商)だと言っていた)に言われたこと。
「好きな作家は?」と聞かれて「シャガールが好きです」と答えたら言われたこと。
「シャガールはいいけど、それしか言えないと素人としか思われない
私は本当にシャガールが好きだけど、当時、私は他の作家をほとんど知らなかった。知っているのは、ピカソ、モネ、ルノワール、村上隆、草間彌生。その程度の知識だった。

「続けることだよ、みんなやめちゃうから」2014年

超有名なアーティストにお会いする機会があり、その際に「アーティストとしてやっていくのに一番必要なこと」を聞いたら、この答えが返ってきた。いろんなことを諦めてきた人生。苦労して大学を出た獣医師まで辞めてしまった。なのになぜ、まだアートをつづけていられるのだろう。
一流のピアニストを育てた先生はどんな先生だったか、という心理学の研究がある。一流の生徒を育てる先生は、一流の音楽家ではなかった。また、厳しい先生ではなく、音楽をやりつづける喜びを教えてくれた先生だったという。
もしかしたら、誰でもつづけることで一流になれるのかもしれない。それならば、自分が「つづけられる」ことを見つけられるといい。

「おまえはどう思う?」2016年

初アーティスト・イン・レジデンスに参加した時、ギャラリーオーナーでありアーティストのWerner Thöniさんの言葉。私の展示だけじゃなく、別の作家の展示についても意見を求められた。Wernerさんの作品自体についても。この展示はもっとこうしたほうがいいんじゃないか、いろんな意見ももらった。一緒に展覧会を見に行った時に感想を聞かれて「この作品はこういうところが良かったよ」と言うと、「お前はそれだけで満足か?」とよく聞かれた。作品を突き詰めることを教わった。
作家は対等であり、作品を良くしようとするあらゆる意見は歓迎なのだ、と感じた。同時に、自身の意見をもつべきだということも。
似たようなことをニューヨーカーの友人にも言われたことがある。「ニューヨーカーは必ず自分の主張をもっている。だからこそ、ニューヨーカーだと言えるのだ」と。

参考リンク  Werner Thöni Artspace(Facebookページ)

「自分の作品をつくりつづけるんだ」2017年

2017年に参加したニューヨークのアートスクール「NEW YORK STUDIO SCHOOL」のフリーレクチャーで講師を務めたアーティストの言葉。当時、その作家はニューヨークのガゴシアンギャラリーで作品展示中だった。
批評家に作品を激しく非難され、一時は作品を捨ててしまったこともあったという。アーティストとしてやっていくのに大切なことはなんですか、という質問に対する答え。
「誰がなんと言おうと、自分の作品をつくりつづけるんだ」

「自信をもてなんて無理。これだけダメって言われ続けて、自信なんてもてるわけない。」2017年

書家・山本尚志氏の言葉。氏の主宰する「現代アート書道レッスン」を受けた時に「現代アートのギャラリーに所属してデビューする前と今とでは何が違うのか」と聞いたら、「今は周りに愛されていると感じる。みなが心から自分の作品をいいと思って応援してくれている」とおっしゃっていた。
「よく自信をもて、なんて言うけど、そんなの無理ですよね。周りにこれだけダメだって言われて、自分に自信なんてもてるわけない」と。日の目を見ることなく、それでも20年以上に渡りつくり続けていられたのはなぜだろう。
私が初めて触れた現代アートの作家で、初めてお会いしてから今まで「芸術とは何か」「作品の価格はどうやって決めたらいいのか」などいろんなことを教わった。アーティストの活動が広がっていく様子を間近に見られることが、これほどワクワクすることだとは思わなかった。
作品には作家の人生がこもっている。良い作品とは作家の人生が凝縮したものだ。

参考リンク  KEGON Gallery 山本尚志(yumiko chiba associates)

東大合格マンガ「ドラゴン桜」で生徒を東大に行かせるため、教える側に必要なのは「おまえは行ける!」と言いつづけること(=自己成就予言)だと書いてあった。
もともと自分の作品が最高だなんて思ってなかった。それでも私がここまでつづけて来られたのは、最初に出会ってこうした言葉をかけてくれた人たちのおかげだと思う。つづけていくうちに、自然と作品の質も上がってきた。同時に今、「全然ダメ」に見える作品をつくっている人が、10年後には大物アーティストになっていることもありえる。自分のかけたダメ出し一言で、開くはずだった芽をつぶしてしまうことも十分にありえる。
言葉は人の人生を変える。しかし、人生を変える言葉を選ぶのは、あくまで自分自身なのだ。

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みじんくん と みじこちゃん

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