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東京画廊・山本豊津氏の著作から学ぶ現代アート/後編~売れるアート作品のつくり方を考える

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東京画廊・山本豊津氏の著作から学ぶ現代アート/後編~売れるアート作品のつくり方を考える

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前編~アーティスト向け学習ポイントのつづきは、売れる作品について考えるところから。品格のある良い作品は何にも取り入ることのない、何にもおもねることのない姿勢から生まれるのだと。しかしながら、作家は売れる作品を作らなければならないという山本豊津氏。
売れるって取り入ることじゃないんですかね?今日はそこらへんを考えてみます。

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作家は売れる作品を作らなければいけない

「売れる作品」について、山本氏は商業主義ではなく、多くの人と「価値が共有できる」作品をつくりなさい、としています。
なるほど、と言いたいところですが、なんか分かりそうで分からなさそうな表現が出てきました。価値が共有できるってどういうことでしょう。現代アートを勉強してると、「品格の良さ」「魂が揺さぶられる」「感性を鍛える」とか分かりそうで分からない言葉がいっぱい出てきます。感覚的なものがあるのは分かるのです。たとえば海外に行った時、危険そうな裏道とか、なんとなく分かるじゃないですか。あんな感じですよね。しかし、少なくとも「多くの人と価値が共有できる」ということが現在の私に感覚的にも分かっているとはとても思えない。分かってたらもっと売れてますよ!笑
そこで、ちょっと自分が分かるまで言葉で考えてみます。

「多くの人と価値が共有できる」というのをまず、「誰もが実感できること」だと定義します。たとえば片思いのドキドキ感とか、親しい人が亡くなった悲しみとか。なるほど、そういう感情は全人類共通、時代を超えて分かりそうですよね。ピカソのゲルニカはスペイン北部のゲルニカ地方への爆撃への抗議といわれています。反戦とか多くの人が同意しそうなテーマだと思いませんか。よし反戦にしーようっと書き始める状態が「取り入る」「おもねる」状態ですよね。受けそうなテーマ、から入っているところに本人の実感を感じません。
タグボートのセミナーで、小山登美夫さんは「アーティストが「商品」を強く意識して作品を制作する場合、よい作品になる確率は概して低くなりがち。よい作品を作ることを第一にすることで、逆に今は売れなくてもアーティストとしては成功することもあります」と語っています。

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この発言を聞いて、良い作品が即、売れる作品でないことが分かりますね。売れるに寄せた作品は良くない作品だとも取れる。
ところで、「最も有名なアーティスト」をご存知でしょうか?これ、アーティスト名です。「The Most Famous Artist(最も有名なアーティスト)」

合わせて読みたい  「現代アートはスタートアップと似ている」。徹底的なデータ分析と直感、最も有名なアーティストが証明した“売れるアート”

僕はいま、自分の生きている時代がなにを求めているのかを見定めて、求められているものを的確に提示しただけ。『売れるアートには法則がある』としたら? その法則にしたがってみればいいんじゃない?

ニューヨークで実際に売れまくった作品をつくったという彼が言うに「現代アートは、スタートアップと似ている。データ分析力と直感。この二つを押さえていれば売れる」とのこと。アートフェアに行って「アーティストなんですが、来年展示させてもらえませんか?」と聞いてまわった時は誰もが無視。翌日100万ドルの札束を透明なバッグに入れて訪れたら、あっという間にみんなが興味を示したと。この様子は動画になっているんですが、非常に滑稽ですよね。

とてもおもしろいですが、ただ、私はこのやり方で売れることで歴史に残る美術になるのかな、と考えると疑問なのです。理由はやってることが社会風刺どまりだからですね。社会風刺ならバンクシーのほうが刺激的ですし、パフォーマンスだとしても身体を張ったアブラモヴィッチのほうがすごいと感じてしまう。ただ、The Most Famous Artistのインスタグラムのフォロワー数は現在156,000人。現時点で多くの人から興味をもたれている(=多くの人と価値を共有できている)のは確かです。

現代アートと名乗らない現代アートがあふれている

しかし、こういう試みは現代アートがすべての人に開かれていることを示してくれるので私は好きです。学歴や技術がなかったとしても、等身大の自分で勝負できるということだから。
実のところ、世の中には現代アートと名乗っていない現代アート作品があふれています。日本の漫画のクリエイティビティは世界中あちこちで賞賛されてますが、「聖おにいさん」なんて、仏陀とキリストが立川で一緒に住んじゃってますから笑。下手に宗教をテーマにした現代アートより尖ってておもしろくないですか?笑

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その絵、いくら?現代アートの相場がわかるで小山登美夫氏は、名画と言われる作品は、「技術、感情、主題」のどれかが際立っていると言っています。この中で私は技術を一番重要視していないのですが、理由はほとんどの技術は科学によってコピー可能になると考えているからです(200年後とかの科学技術を考えた場合ですよ笑)。職人的な技術を素人でも機械によって利用できるようになるとしたら、技術そのものよりも、「どう使うか」が重要視されるはず。また、コンセプトがどんなに素晴らしかったとしても、それがコピーされる速度も格段に早まるはず。完全コピーでなく、ちょっとアイデアを足して出すとかね。もちろん、最初に広まったほうが価値があるとみなされるんだろうけど、ものすごく速度が速まった場合、はっきりとどっちが先と言えるものなのでしょうか。

売れ続ける作品をつくるには

売れる作品、というのを、今、この瞬間のみ売れるというより、「売れ続ける作品」として考えてみます。一過性でなく売れ続けるというのは、時代の変化に耐えうる強度を持っているということ。それは良い作品でもあると思うのですね。「売れ続ける」を考えた時、「その価値共有は代替されるか、持続されるか」を考えたら分かりやすくなるんじゃないかなと。
たとえば、エロい絵は売れるかもしれない。ピカビアなんかは一時、生活のためにヌード画も描いていました。でも、単に売れるだけだと、他の絵、あるいは写真でもいいわけですよね。そう考えると、エロい絵は多くの人と価値共有しやすいけど、代替されやすい。これまでに何度も書いてますが、持続可能で他者に代替されないものは「自分」しかない。ということは、売れ続ける作品というのは、「自分自身」と「多くの人の喜び」の掛け算で生まれるものだと言えます。この場合の多くの人、というのは、現代人だけでなく、未来に生まれてくるであろう人たちを含みます。
それが、自分だけがつくることができ、多くの人と共有できる価値。山本氏はこれを「私たちの魂と存在を揺さぶる、言葉を超える感覚」と言っています。ハイ、感覚的な話に舞い戻ってきちゃいました。

歴史に残る作品は誰にも分からない

では、歴史に残る作品がこれだと分かる人は、この世にいるのでしょうか。目利きと言われる人たちはいるようです。しかし、私は歴史に残る作品が何であるかは誰にも分からないと思っています。作品をいっぱい見てるから、買ってるから、勉強してるから分かる?ホントでしょうか?
山本氏は、作品のもつ力や意味を理解し、時代の流れや美術の歴史の中でどのような意味があるかを判断するのが画廊の役割としています。画廊がやれるのは「きっと価値があるに違いない」と信じて一緒に戦うこと。どれだけ勉強しても、できるのは「ダメ予測」までです。学べば学ぶほど、確実にダメだろう、と分かるものの精度は上がると思います。しかし、残る物は誰にも分からない。なぜそう言えるか。だってさ、アート以外の世界を見てくださいよ。プロがやることが全部うまくいくなら、政治とか経済とかもっとうまくいってていいと思いません?イチローだってヒットは3割ですよ?それなのにアートだけが確実に未来予測できるなんて不自然じゃないですか。だからね、できないんですよ、誰も分からないんです、歴史に残るのがどれかなんて。こうすれば生き残るって分かって進化する生き物がいないのと同様に。歴史に残る作品なんて全部たまたまなんですよ。たまたま誰かが保存してくれただけ。印象派をボロカス言った人たちだって、きっと当時の識者たちでしょう。

たまたま生き残る方法を考える

勉強しなくていいよと言いたいわけじゃないです。勉強することによって、確実にダメな作品は分かるようになるから、生き残り確率は上がります。分かりやすくいうと、音楽をやりたい人が今の時代にカセットテープで音楽を売ろうとしても、なかなか売れないですよね。それはカセットテープで音楽を聞く人がいないから。学ぶことで明らかにダメなことはちゃんと分かってくる。それに学ぶことで、アーティストと一緒に戦ってくれるアート関係者は増えるはずだ。だから「勉強する」は仲間を増やす行為とも言える。そこを踏まえて、前向きに運よく生き残る方法を考えましょう。まず、できることは2つ。
「つづけること」「伝えること」
つづけること、成功するまでやれ。これは、あらゆるところで言われてることですね。伝えるは、たまたま気に入ってくれる人に見つかりやすくするということです。
私が六本木のギャラリー、UNAC TOKYOの海上雅臣さんに出会ったのは、ほとんど偶然なのです。獣医を辞めた直後にふらふらと六本木を歩いて、迷子になった挙句に入ったカフェで出会った人が紹介してくれた。しかしもしも、その時に自分が「ちょっと絵を描いてる」「アートに興味がある」的なことを言わなければ、紹介すらしてもらえなかったと思うのです。やりたいことをやり続ける。そしてやりたいのだと伝え続ける。世界はたった6人の知り合いで繋がっているのです。

誰かに手を貸す

3つめにすることは、自分ができることで誰かに手を貸す。誰かが出会いたがっている人、知りたがっているコトは、自分がよく知っている人・コトかもしれません。そしたら、その手伝いをする。自分だけが手伝ってもらうのではなく、手伝い合うということ。世界の6人の繋がりを、自分のところで止めないこと。この手伝い合う、が世界にあふれたら、自分たちができることの可能性はもっと広がるのではないでしょうか。自分たちのために、自分の小さな力を発揮する。それを意識する人が増えたら、みんなで楽しく生きていけるんじゃないかな。うん、私はそんな世界に暮らしたい。

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全然関係ないんですが、アスキーアートが自動生成できるサイトを見つけましたよ。

参考リンク  AA変換(アスキーアート生成)

余談ですが、本書で線の話が出てきて面白かったので、追記しておきます。
山本氏によると、線は3種類あると。

1)前近代の線:筆による細くなったり太くなったりする線
2)近代の線:鉛筆やペンの線、太さが一定
3)現代の線:コンピューターを使った線

GANTZは3Dで描かれた線なのですが、山本氏はそれが好きだと書いていて、私はちょっと驚きました。漫画(ストーリー)は好きなんですけどね。手書きを見慣れている人にとってGANTZの絵は違和感があります。というか、私はそんなに好きな絵ではなかったので、もしかしたら自分の中に「手書き=素晴らしい」というよくある偏見があったんじゃないかと疑いました。
ちなみに、丸筆は身体全体の動かし方を習得していないと線を描き分けるのが難しいそうで、書家の動きは武術の達人に近いものを感じると書かれていました。また、古武術の動きは書道につながるものがあったようです。「線」をテーマに作品制作している方にとっては、本書はヒントが多いのではないでしょうか。

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