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Ouma新作インスタレーション作品「The World Ⅳ」~アーティスト・イン・レジデンスの作品の企画から発表まで

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Ouma新作インスタレーション作品「The World Ⅳ」~アーティスト・イン・レジデンスの作品の企画から発表まで

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アーティスト・イン・レジデンスでは事前につくりたい作品の企画書を出して応募するところと、過去のポートフォリオだけで応募するところがあります。前者は「その作品をつくる」こと前提で参加しており、だいたいは発表の機会があります。今日は実際につくってきた作品をもとに、企画書の作品をどこまで変更してよいかなどをご紹介していきます。

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フィンランドのSerlachius Museumで制作した新作「The World Ⅳ」

フィンランド北部の町マンッタにあるSerlachius Museum。製紙会社がはじめた美術館なのですが、広大な敷地は本当に美しい。近隣の森も豊かでキノコもわっさわさ。レジデンスの応募は2月頃にオープンします。素晴らしい環境の割には倍率は今のところ低く、美術館のスタッフさんたち、町の人たちも非常にフレンドリーなので、オススメのレジデンスです。

参考リンク  SERLACHIUS RESIDENCY

応募時の企画資料

私が参加したのは2017年9~10月でしたが、応募は2016年の2月。ということは企画書提出から参加まで1年半近くかかっていることになります。
10月の作品発表で出したのはこちら「The World Ⅳ」
実は初期の企画とはだいぶ違って、企画段階ではこんな感じでした。


壁に棒を刺し、そこに紙をかけていく感じのインタラクティブワークを予定していました。美術館が製紙会社経営だったので、「日本とフィンランドの紙を使う」という基本コンセプト以外はほぼまるっと変更かかっています。なんでこんなに変更をかけたのか?

先にお伝えした通り、レジデンスは応募から参加までにかなりの期間があります。受かってからも企画案はずっと考え続けているので、だいたい参加する時までにはさらにブラッシュアップしたアイデアをもっていることになります。今回は壁に刺さった棒にどうやって紙をかけさせるか、というのをずっと考えていました。その結果、作品中心部の変化があまりなさそうだったのと、ギャラリーに訪れる人が少ないと展覧会開始初期と後期での変化が少なさそうだったので、たとえ人が少なくても作品がダイナミックに変化することを意識した変更をかけました。
私の作品は訪れる人が起こす「変化」が作品の重要な要素となっているので、関わりやすい仕掛けをつくっていくことが大事になります。

事前に企画提出するレジデンスに参加する時に考えておくといいこと

当初出していた企画案をどこまで変更できるか、ですが、それはレジデンスの状況によります。Serlachius Museumは展覧会開催も希望者だけだったので、割とフレキシブルに対応される気がしました。なのでかなり大きく変更をかけましたが、「日本とフィンランドの紙を使う」の基本は守っています。この部分に興味をもってもらって選ばれたので、言われてなくても私はこういう部分は守るようにしています。

応募前に参加できる期間の予測はだいたい立っているので、通常は期間いっぱい使って制作できるようなプランで私は出しています。ただ、希望通りにいかないこともあるので、ある程度作品規模を拡縮できるような目算もつけておく。あるいは変更可能なアイデアを複数もってレジデンスに臨みます。展覧会がある時にはなるべくインスタレーション作品を出したいのですが、アトリエのサイズはほとんどのところで行ってみないと分かりません。また散らかしたり汚したりしていい程度も。他のアーティストさんとシェアの場合はその兼ね合いもあります。シェアアトリエの場合は他の作家の制作風景がそのまま見られるところ、またすぐ近くにいるので作品について話しやすいところがいいですね。プライベートの場合は制作に集中できます。プライベートでも他の作家のアトリエ見学はだいたい歓迎してくれるので、どんなのつくっているか聞きながら、スキルやアイデアの交換をするのはなかなか楽しいです。自分も他の見学がOKな時はアトリエの扉を少し開け、扉が見える位置で制作していると、通りがかりに目が合った時に遊びに来てくれやすくなります^^

The World Ⅳができるまで

The World Ⅳは日本からもちこんだロールの和紙とギャラリー兼アトリエスペースにあったトレーシングペーパーを混ぜてつくっています。和紙、トレーシングペーパー、和紙、トレーシングペーパーと交互につなぎ合わせてますが、紙の長さの比率をフィンランドの国旗にある十字の比率に合わせてカットしています。

切った紙を用意した後、片面だけ白く塗る。フィンランドの国旗の「白」は雪を意味しています。日本の国旗にも白の面積が多いですね。日本の国旗の白は「神聖、純潔」を表しています。両者を結ぶ色としての「白」
あとは細かく切り刻むアイデアがすでにあったので、雪みたいに積もらせたかったというのも「白」の意図です。この白い塗りの一部は同じフィンランドでも1つ前のレジデンスで作業しているので、フィンランドの雪解け水も塗り込まれています。水道水を使ってもまったく見た目は変わらないのですが、「繋がり」というのは私の作品全体に流れるテーマの一つなので、可視化されず気づきもしないコネクションを混ぜておきたかった、というのが雪解け水使用の意図です。

すべての紙を円環状につなぎ、無作為なドローイングを施していきます。並行してドローイングの模様の塗りも進めていく。乾かすのに時間がかかるので、だいたい一日に塗れるのが2~3回。この後にカット作業がつづくので、ドローイングが終わったところで、乾いた塗り部分をカットし始めることもできました。ですが、いったん塗りも全部終えて、円環状の作品を「完成」させたかったので、塗りが終わるまでカッティングはしないことに。

全部の塗りが終わったのがちょうど9月末。ここまでだいたい1ヵ月かかっていることになります。この時の滞在では2度の個展を開催、その準備や現地でのワークショップの予定なども組んでいました。並行してそれらを進めていっても順調に作品が仕上がるように、頭の中で「作業の締め切り」を認識しておきます。どこまでにドローイング、どこまでに塗り、どこまでにカット、どこまでに折りが終わっていないといけないか、また設置に最低でも2日はかけたい。

新作のインスタレーションをつくる時は「思ったより時間がかかる」「設置する設備がない」など予想外のことがよく起こるので、なるべく余裕を持って進めるようにしておきます(それでもいつもギリギリ)。ですが、乾き待ちの時間などはどうしてもかかってしまうので、たとえば「塗り」→「朝食」→「塗り」→「近隣の散策」→「塗り」のように作業を進め、効率よくつくっていけるようにします。マンッタはアトリエまで自転車で3キロだったので、最初の頃は朝起きてまず塗りに、戻ってきて朝ごはん、ということをよくやっていました。
私は観光にそれほど興味がないのですが、新しい町はそれなりに見たいので、こういうスキマ時間で少しずつ市内散策をします。レジデンスは参加期間が長いので、こうやってちょっとずつ町を知っていけるところも好きなところです^^なにひとつ焦らなくていい。生きながら出会っていく感じ。そういうのが好き。

カットをしてからひたすら折る。折り紙で折り鶴をつくるときにできる四角の形状に折っています。折り紙だとこの基本形からいろんなものがつくれるんですよね。
なるべく白い面が多く出るように外側を白に。丸3日、1日8時間くらい折り続けてましたが、これがなかなかにしんどい。肩が痛すぎて動かなくなってくる。単純作業がつづく時はどうしてもこうなってしまうので、塗りの時と同様に別の作業を混ぜて身体を休ませながら作業します。また、作業的に飽きるので音楽をかけておくか、ネットで動画を見ながら作業する。特に好きなミュージシャンの新曲が出てると音楽を聞きたいという理由で作業に向かうので非常にはかどります^^

折りが終わったらいよいよ設置。折りが終わった段階ではフィンランドの紙と日本の紙は分けられています。混ぜてしまうとあとで分けるのが大変だからですね。設置の段階になって、全部混ぜるかある程度分けて違いを見せるかを考えます。今回はコンセプトとギャラリーのスペースの広さなども考えて全部混合だったほうが良かったので、結局全部混ぜることにしました。

それから写真撮影。インスタレーション作品の場合は特に、今後の展開のためにも写真が非常に重要。特にこの作品は「盗んでいい」としていたので、作品に変化がない完全状態で撮れるのは個展の開始前しかありません。写真はとにかく大量に撮る。今回は設置後も含めて500~600枚くらいでしょうか。インスタレーションの場合は特に、あとで撮り直すのが非常に大変なので、撮れる時に撮りまくっておきます。ピンボケなど明らかに使えないものはヒマな時に削除。

The World Ⅳの基本コンセプト~Take FreeとCan Stealの違い

フィンランドと日本の紙を使った作品です。もともとは一つの円環状につながった作品を細切れにして積み上げているため、すべてのピースがつながっています。
この作品は「盗む」ことが許されています。盗むというのはつまり、誰にも見つからないように、誰かのものを密かに入手することです。盗まれた作品は作家のものなのか、盗んだ人の物なのか。
私たちは道端の落ち葉を拾って持ち帰ることができる。床に落ちている誰かの髪の毛を拾って帰ることができる。
私たちはどこまでを所有していてどこまでを所有していないのでしょう。また、所有する価値があるものとはなんでしょう。
誰かが作品の一部を盗んだとしたら、すべてがつながっているこの作品の「完全性」は失われます。しかし、作品が盗まれたかどうか、どの程度減ったかは、私たちは知ることができません。
盗まれた作品の見映えは、盗まれていない時とほぼ変わらないでしょう。
果たしてその価値は下がるのでしょうか?
本作は「所有」と「価値」とは何か、あなたに問いかけます。


本作で興味深かったのは、「盗んでいいよ」ってしてるにも関わらず「盗んだりなんかしないわ」っていう人がいたこと。たぶん「Take Free」だったら自由に持ち帰ったと思うのですが「Can Steal」と言い方が変わるだけで「盗んだら犯罪じゃん」とためらう人がいるということ。あとは「もらっていい?」って聞いてくる人がいたってこと。それはもちろん、「ダメです」とお断わり。盗んでいいものなので、盗んでください、と。聞いてくるということは「盗む」という行為にためらいを感じるという心の動きがあった証拠。私の作品にはそういった本人の「感情の想起」が重要となっています。

ちなみに別の作品「系統樹」を買ってくれた人が送ってくれた写真。あっ、盗まれ、、笑。

いかがだったでしょうか?次回はこれまでに参加したレジデンスでの発表状況についてお伝えしていきたいと思います^^

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みじんこは、レジデンスをめいっぱい楽しみます!ヽ(=´▽`=)ノ

みじんくん と みじこちゃん

「いろんな人に会えるよっ。」
「楽しいよー」

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