良著を濃縮還元してお届けするみじんこブックレビュー。『世界葬祭事典』。世界のお葬式習慣をまとめた本がありました。
物語をつくる上で、人々の考え方や慣習みたいなものがちゃんとあると、フィクションであってもその世界のリアリティが増すように思います。文化や慣習ってその世界に生きる人たちの暮らしのルールなので、そこがあると物語の人たちも生きやすい気がします。 物語づくりの参考として、自分が覚えておきたい考え方をメモしました。(その国すべての慣習というより、メジャーなものと思ってもらえるといいかも。詳しくは本書をご覧ください)
インドネシア
遺体は不浄であると考えるので、まず聖水で清める。
遺体を「聖なるもの」「不浄なもの」「ただの亡骸」「今後復活するもの」などと考えることは同時に、遺体と生きている存在は違うものと考えているっていうことだなぁと思って興味深かったです。 遺体=不浄の場合だと、死ぬとみんな平等に不浄になっちゃうってことでもありますよね。どうしてこういう考え方になったのか、背景も気になります。(遺体が原因で伝染病が蔓延したみたいな歴史があると、遺体に触れないようにするためにこういう概念が浸透しやすいとかあると思うのです)
スリランカ
どなたかが亡くなった当日は喪家の部屋の壁にかけた写真類をすべて上下、表裏、逆に掛ける。これはポルトガルの植民地であった影響による。
こういう習慣もとてもおもしろいですよね。物語をつくる時に、こういう死後の習慣とかを合わせてつくっておくと、物語に真実味が増します。 スリランカでも遺体は不浄という考えみたいですね。
タイ
民族が多いので、民族ごとに違うようです。
ラフ人は埋葬の日まで毎日、食事が遺体の傍らに備えられて「食べてください」とお願いする。
棺の上に鶏の足と羽を置く習慣もあり、これは喉が渇いたらその足で井戸まで行き、暑い時は羽の影で休めるという配慮からだそうです。
アイヌ
アイヌ人が亡くなると、村への貢献度によって「死んだ」という表現が異なる。
ちょっとよく分からなかったんですが、貢献度が高かった人の死を「〇〇」、そうでもない人の死を「☆☆」と呼ぶ、みたいな感じでしょうか。呼び方が変わるっていうところがとても興味深かったです。
台湾
生きている間に住む住宅は「陽宅」、墓は「陰宅」
陰陽の考え方がこんなところにも。陰陽はどちらが良いとかないと思うので、生活や生き方が変わる、みたいな考え方でしょうか。
バヌアツ
昔の伝統的生活を保持しようとする「ナグリアメル運動」があり、人が亡くなったら埋葬しないで、家の中の穴にミイラとして安置する習慣がある。
家の中にミイラとして置いておくのすごいですね。人が多くなると積み上がりすぎそうな気がする。でも、こういう習慣があるっていうことは、死者を怖いものとして捉えてないのかもしれないですね。
アンゴラ共和国
ルンダ人は死者が出ると悪魔の仕業と考える。妻帯者が死亡の折には、死因の如何に関わらず、故人の実家に金品を支払う習慣がある。
悪魔を出しましたね、っていう罰金のようだ。。こういう習慣があると、自殺する人がそもそもいなさそうな気がします。愛する人が亡くなって辛いところにお金も払うっていうのは、なかなか大変そうですが、実際にこういう文化の中で暮らしている人たちはどう考えるのでしょうか。
悪魔にやられたからしょうがないって感じなのかな。詳しく聞いてみたい気がします。
エジプト
かつては葬儀の際「泣き女」が雇われることもあったが、最近その習慣は廃れている。
仕事として泣く人の存在がこんなところにも。
ガーナ
最愛の人の死亡の際には、葬儀の折にその好物や鶏などの捧げものをし、三途の川を渡る渡し賃や魔よけの矢を遺体のそばに置く習慣がある。
三途の川っていう概念がガーナにも!っていうのが驚きでした。渡し賃を渡してしまうと死んでしまうから、渡し賃は払わないっていうのはナシなんですかねぇ。死にきれず生き返れないような場所に留まっちゃうのかな。
ニジェール共和国
ザルマ人は人間は3つの部分(肉体、個性、生命力)からなり、死は自然のなりゆきか霊による解体と信じられている。
葬儀というより、この人間に対する考え方部分がおもしろかったです。個性と生命力の違いはなんだろう。
モーリシャス共和国
地方では葬礼儀礼に関するさまざまな祭りや儀式があり、火の上を歩くアクバシャナの儀式が島の北東部で見られる。
火の上歩くのいろいろありますが、お葬式の儀式になってるのも興味深いですね。
レバノン
埋葬後、コーヒーにケーキという簡単な精進落としを振る舞う
精進落としが甘い物っていうのがおもしろいですね!お通夜の帰りに塩を撒くような感じで、甘い物を食べるんでしょうか。
オランダ
フリージア人は一般にキリスト教の慣習に従っているが、キリスト教伝来以前の慣習も残り、たとえば遺体を墓地に運ぶときには、わざと回り道をして故霊がこの世に戻らないようにする。
途中で蘇らないような習慣もいくつかありますが、まわり道するっていうのもおもしろかった。日本のお盆は戻ってきてもらってまた送るっていう感じですよね。中途半端に戻っちゃうのがまずいのだろうか。ミイラも基本的には蘇った時の身体保護ですもんね。
デンマーク
国民は所得の8%の教会税を国家から徴収される代わりに、結婚式や葬式を教区内で営む費用は一切無料。
無宗教者でも結婚式や葬式を教会でやる場合には、教会は拒否できないんだそうです。しかし、そんなに何度も結婚・葬式ってしないと思うので、所得の8%取られつづけているのはそこそこキツイような。結婚式の規模は国によって大きく違うので(中国系だと100人以上が集まる大家族になることが多いかも)、デンマークの結婚式の規模も気になるところです。
アメリカ・アラスカ州
「魂の家」と呼ばれる墓所では、最近まで、埋葬後40日間、毛布をその上にかける習慣があった。毛布の色は赤が最高。村民の身分によって毛布の色は決まっている。
広いので地域ごとに違いもすごいですね。身分ごとに葬式の規模が違うっていうのは、いろんなところで見かける習慣ですね。(たとえば王族の墓がピラミッドみたいな) 本人が死んでも墓は残るので、墓によって権威を示し続けるという意味合い、あるいはあなたも高い身分を目指そうね、みたいな導きの意味もあるのでしょうか?
ペルー
ペルーからブラジルにかけて住むアマハカ人は、死者が出ると関係者が出そろうまで喪家の床下に仮に埋葬するが、その後、火葬して遺灰は近くの川に流し、残った歯や骨片は砕いてスープに入れ、近親者が飲み干す習慣があった。
リアル「ぼくいこ」だ!
https://alu.jp/series/%E6%AF%8D%E3%82%92%E4%BA%A1%E3%81%8F%E3%81%97%E3%81%9F%E6%99%82%E3%80%81%E5%83%95%E3%81%AF%E9%81%BA%E9%AA%A8%E3%82%92%E9%A3%9F%E3%81%B9%E3%81%9F%E3%81%84%E3%81%A8%E6%80%9D%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%80%82/article/LpOWQMe5rwvZ2Kav0vf9最後のコラムで、フランスの宗教学者ジャンケレヴィッチの「死」についての概念が紹介されていました。
一人称の死=自分の死(自分は認識できない)
二人称の死=近親者の死
三人称の死=見知らぬ人の死
人の心に影響が強いのは二人称の死で、最愛の人との別れという辛さと、遺体が腐敗していく恐怖心という、半ば対比する気持ちを止揚する象徴的行為が葬送慣習ではないかという考え方でした。 お葬式だけでなく、成人としての儀式や結婚式など、ライフスタイルに合わせた儀式が多いのは、そういうものがあると自分の現在地を確認しやすいからなのかな、とふと考えたのでした。
死の概念本としてはこちらの本が絵がかわいく分かりやすいのでおすすめです!(ハードカバーの単行本が最高)
ここまで読んでいただきありがとうございます!
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みじんこは、学んでいるよ!ヽ(=´▽`=)ノ