累計250万部を超える大ヒット作『チェンソーマン』の作者、藤本タツキ先生の初連載作品『ファイアパンチ』。読んだことがある方は分かると思うのですが、『ファイアパンチ』ってストーリーが紆余曲折してて、どこに向くかまったく予想つかない感じなんですよね。善悪とか倫理観みたいなのが完全崩壊している世界観というか。ものすごく現代アート的で好きな作品です。
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インタビューを読んで「戦略的におもしろいものを描く」と考えて出てきたのがこれか、、!と思って驚かされました。
✓ 合わせて読まれたい 「ファイアパンチ」藤本タツキインタビュー – コミックナタリー 特集・インタビュー
1話が65ページもある1話を読んだだけで大長編ドラえもんを読んだような印象を受けるんですが、何ページで何が起こっているかを丁寧に見てみました。
※ネタバレしまくってるので、少年ジャンププラスのページから無料で読める1話を先に見たほうがいいです!超オススメ!
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読者的に強い衝撃があるシーンを★で表しました。
紙の場合は偶数ページがめくったぺーじなので、めくり効果が入るのが偶数ナンバーになります。
ページを「説明」「驚き」「間」の3カテゴリに分類してみました。
「説明」:世界観や設定、状況の説明
「驚き」:読者がドキっとさせられる部分
「間」:その他、つなぎや人々の気持ちなどを表す部分
1p(説明)
世界観の説明、兄と妹が極寒の世界で死にかけている
2p(驚き)
★兄の腕に斧を振り下そうとする一枚絵(衝撃度大)
3p(驚き)
兄の腕を切ろうとしてるのは妹で、妹が兄の腕に斧を振り下す
4p(驚き)(説明)
兄、めっちゃ痛がるが腕がすぐに再生。今日だけであと7回切らないといけないことを伝える
★腕が再生するという驚き、7回も切るのかという驚き
5p(驚き)(説明)
兄と妹で村の人たちに自分の腕を配る(村人は兄妹の肉で生きていることの説明)
★食用に切ってたのかという驚き
6p(説明)
兄妹の会話、お互いを気遣う関係性
妹も再生能力があるが、兄ほどではないという説明
7p(説明)
兄と妹が腕をぶつけ合って「約束」をする→この動作は今後の展開への伏線
村人のおじいさんが死亡
今月6人目の死者=かなり死亡者が多い世界であることを説明
8p(説明)
おじいさんは人肉食を拒否したために死亡していた
氷の魔女が世界を極寒に変えてしまったために、食料不足が起こって飢え死ぬ人が増え、兄妹の両親も死んだという説明
9p(説明)(間)
兄妹の生活
兄の肉を自分たちでスープにして食べている
10p(間)
兄妹の生活
妹にたくさん食べさせようとする兄(兄はかなり妹想い)
兄さんはおいしいです!(ギャグ?)
11p(説明)
兄妹の生活
兄はあったかかった世界も知っていると話す
暑い日に川に入ると冷たくて気持ちいいと話す→のちにこれが嘘だったこと(兄は凍った川しか見たことがない)が分かる
12p(説明)(間)
一緒のベッドで眠る兄妹
いつか暖かくなったら一緒に世界をまわろうという妹(かわいい)
「約束」として拳をぶつけ合う二人
13p(驚き)
妹は切羽詰まった顔で★兄に「子どもを作らないか」と迫る
14p(驚き)
兄は「自分たちは兄妹だ」と言って拒否。
妹は「村で若いのは自分たちしかいない、兄を愛している」と伝えるが、兄は兄妹であることを理由に拒否する。
https://alu.jp/series/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%91%E3%83%B3%E3%83%81/crop/PWfpoH6za1wZUNLZj5lA
↑ シュールすぎるギャグセリフっぽいのも、ちょいちょい出てくるので読んでて揺さぶられるシーンが多いです。
15p(説明)
死んだおじいさんのお葬式。人肉を受け入れたくないのは分かるが、受け入れないと死ぬと村人の一人が言う。
16p(間)
他の苦痛をすべて受け入れても死には抗おう、肉をくれる兄妹と神に感謝を述べる村人。
死に祝福を、という言葉が意味深い
17p(間)
貴重品である牛乳を村の老人から兄に渡される。兄は拒否するが、老人は3年前に二人が村に来た時から自分たちが親なのだと語る→回想シーンへ
18p(説明)
兄妹が初めて村に来た時の描写。凍え切っている二人。村人は貴重な薪を使って若い二人を助けることを決意。
19p(間)
神に祈る「慈悲の炎を」→極寒の世界と炎が物語全体で対比的に描かれている。回想終わり
鹿を見つけて山でハンティングする兄
20p(間)
子どもを作ろうという妹の提案を思い出す兄
飛行機が頭上を通過
21p(間)(説明)
大型の飛行機が村の近くに着地
現代と類似の科学技術がある世界なのだと絵から分かる
22p(間)
老人たちが外に出されている
23p(間)(説明)
上官っぽい兵士が「奴隷を集めにきたわけじゃないから銃を下ろせ」と命令
奴隷のいる世界だと分かる
24p(説明)
ドマと名乗る上官。近隣で戦闘があったため、食料とガソリンを補充したいと兄に伝える。
25p(説明)
ドマはベヘムドルグという王国の者であることが伝えられる。
若くて能力があれば出世できるので、王国に来いと兄を誘う
26p(説明)
戦力が揃ったら世界を極寒にした「氷の魔女」を倒して世界に緑を取り戻す、とドマが言う。兵士が何かを見つける
27p(間)(驚き)
家に人肉があり、人肉食をしていることが伝えられる
ドマは「ここに村はなかった」と言い、撤退を命じる
★読んでいて村があるのに「ない」と言い切るのはどういう意味だろう?という気持ちになる
28p(間)(驚き)
★ドマのセリフ「こいつらは人じゃない」
→ここまで読んでいて、人肉食ではあるが、兄妹は身体が再生するし、飢餓で死にそうになっているんだから、人肉で飢えをしのいでもいいんじゃないか、という気になってしまう。ドマがこう言った真意は、後半の伏線にもなっている。
祝福者が村にいるかどうかを確認。兄は奴隷にされることを怖れて「いない」と答える29p(間)
ドマは炎の能力をもつ祝福者で、村へ向けて手をかざす
30p(驚き)
★めくったページの次が村の全焼図
31p(驚き)
焼け死んだ人々と兄の悲鳴
32p(驚き)
兄も全身が焼かれている
33p(驚き)
兄は再生の能力者なので、焼かれながらも再生し、苦しみながら生きている
34p(間)
燃えながら妹に無事でいてほしいと願う兄。意識を失うような真っ黒のコマをはさみ、痛みに耐える様子
35p(説明)
苦しみの中、再生を拒否して死ぬことができることを発見
36p(驚き)
★死んで楽になろうと考える兄、表情が完全におかしくなっている
37p(間)
死を切望し、両親を思い出す兄
38p(驚き)
燃えている妹を発見
39p(驚き)
再生能力の弱い妹は、再生が間に合わずに塵になりかけている
40p(間)
かわいそうだが、二人とも死ねば両親も含め家族が揃うと考える兄
41p(間)
妹との間に子供が生まれているような描写、妹は手を差し出す。
42p(驚き)
★いつものように拳をぶつけながら「生きて」という妹(1枚絵)
43p(驚き)
塵になった妹を前に、妹の「愛してる」という言葉と村人の「他の苦痛を受け入れても死には抗え」という教えが頭に響く兄
44p(驚き)
兄の心が揺さぶられる
45p(驚き)
妹に「生きて」と言われたこと、ドマを塵にしてやりたいという憎しみを感じる兄→「死ぬ」ことしか考えていなかった兄が糧を得て「生きる」ことを目指すようになる
46p(驚き)
炎に焼かれて1年目、3年目、5年目の経過が語られる
★徐々に身体に炎が慣れてきているが長時間の苦しみ方がエグイ
47p(驚き)(説明)
8年目に顔の左側のみ炎をどけられるようになり、呼吸ができるように
拳を握る
48p(間)
妹のことを思い出す、ドマを殺す覚悟を決める
49p(間)
燃える拳のアップ(タイトルのファイアパンチにつながる描写)
50p(説明)
奴隷が運ばれている
51p(説明)
美人奴隷は金持ちに買われ、ブスは子どもを生み続ける、男は死ぬまで労働と雑談しながら奴隷たちを運ぶ兵士
★現代の常識からすると「ひどい」感じのセリフも多いが、「ひどい」と感じていない人々もいて、登場人物同士や読者がどのような「常識(教養)」を持っているかが問われるところも本作の魅力
52p(説明)
奴隷たちが見ている前でおしっこをする兵士、年寄りを殺し、祝福者(特殊能力を持つ者)がいるか聞く
★たとえば、人前でおしっこするの恥ずかしくないのだろうかと感じてしまうのも私がもっている常識でしかない
53p(驚き)(説明)
奴隷の一人が痩せた子どもに水を分けて欲しいと兵士に頼む
おしっこをしてた兵士が無から鉄を生成、コップをつくる
54p(驚き)
★兵士はつくったコップに自分の尿を入れて渡し、飲めと命じる
55p(驚き)
10秒で捨てると言われ、親はコップを受け取る
車から睨んでいた一人の子どもの視線に気づく兵士
56p(驚き)
睨んでいた子どもも老人たちと同様に殺せと命じる
57p(驚き)
一列に並んだ老人たちは端から銃で撃たれて殺されていく
神に祈る子ども
58p(説明)
燃える人が歩いてくる
金属を生成できる兵士が戦闘準備
59p(間)
兄の目に映る人々の死体が、全滅させられた自分の村に重なる
60p(間)
全身が燃えている兄の一枚絵
61p(間)
ナレーションと戦闘描写
62-63p(説明?)
タイトルコール(映画のような感じ)
64p(間)
燃える兵士
65p(説明?)
燃える人の姿を目に焼き付ける子ども
タイトルコール
全体の流れをまとめると
1~5ページ【驚き大★★】:計5ページ
人肉食と能力者の世界観が衝撃
6~19ページ:計14ページ
兄妹の生活やこの世界の生活説明
20~30ページ:計11ページ
転機(ドマが村に来る)
31~49ページ【驚き大★★★】:計19ページ
死→生に思考がシフトする兄。
復讐を糧にして生きることを決める
50~57ページ:計8ページ
次回につながる描写と、今後重要になって来る子どもと兄との出会い。
58~65ページ【次も読みたい期待感★★】:計8ページ
全身が燃えながら戦う人の描写、今後どうなるんだろうという期待。
1話時点では「復讐に向かう兄」という目標が明確に感じられます。
悪を倒しそうな感じがしますが、読み進めるほどにいい意味で裏切られまくるところがすごいです。
ざっくりとした所感ですが、真ん中に一番大きな衝撃イベントがあり、始まってすぐに驚きがあり、最後に続きが気になる導線があって、65ページもあって長いんですが、途中で離脱したりページスキップしたりする隙がないんですね。
数値化してみる
場面転換:2回(ドマが村に来る、奴隷運搬)
山場:2回(スタートの人肉食を伝えるシーン、燃えて生きるシーン)
引き:ラストの子どもと兄アグニの出会い
時間経過:過去3年前→現在→8年後
読んでて感情が揺さぶられるところ:9回
:兄の腕を切っているのが妹(食用だった)
腕は再生する(しかし痛い)
シュールなギャグ
兄に子どもを作ろうと持ちかける妹
全滅させられた村
アグニが生きたまま8年も焼かれ続けていること
奴隷の存在
老人が殺されること(=人が労働力としてしか見られていないこと)
尿を飲むことを強要されること
伏線:3
:拳をぶつけ合う約束
人肉食への考え方
氷の魔女の存在
スッキリするところ(1話ラスト)
:尿を飲ませようとした兵士が兄に殺されること
子どもの命が助かるところ
分解してみると、無駄な展開が1つもないけど、セリフが多いわけでもないからちゃんと分かりやすい。衝撃的な絵の迫力もすごいんですよね。
教養とは集団免疫ではないか現代のような「教育」が行き届いていない世界が舞台なので、読者のような本作の中では現代人的価値観がけっこう通じません。逆にいうと、もしも現代教育をまったく受けたことがない子どもにこれだけを読ませたら、人間はどうして食べちゃいけないの?同じお肉なのに、って思うかもしれません。
地球上には古代の生活を守っている人々もいます。
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なんとなく、パンだし焼けば元通り蘇るしということでアンパンマンが顔を食べさせていることにまったく疑問をもっていませんでしたが、同じ元通りになるという設定でも、それが人だと衝撃がすごいですね。
自然の中で暮らしていた時と違い、私たちは社会の中で暮らすようになったおかげで、社会から守られるようになりました。日本にずっといるとなかなか気づかないですが、たとえば「安全性」って日本ではかなり高い精度で守られています。衛生面とかもまた。
ウイルスなんて見たことがないけど、「感染予防に手洗いしよう!」と言われると「はーい!」ってなりますよね。現代では、見たことがないのに存在を信じる人がほとんどっていうことです。
下水道に住めば感染症は治るとか、砕いた宝石を薬がわりに飲み込むことが主流だった時代に「手を洗おう!」と言ったところで誰も聞いてくれなかったと思います。
私たちはお互いを守り合うために、「倫理」というルールを持っています。奪おうとしない、困ったら助けようと動けるのは、助けてくれた人たちによって教育されてきたから。教養としてもっていることや常識としてもっている考え方は、時代に合わせてアップデートする必要はあるけれど、社会に暮らす集団を守る免疫力のように働いて、お互いを守るものだなと思いましたよ。
衝撃展開のつづく『ファイアパンチ』
▼1話は無料で全部読めるのでこちらからどうぞ。
✓ 合わせて読まれたい [1話]ファイアパンチ – 藤本タツキ | 少年ジャンプ+
今日も読んでいただきありがとうございました!Ouma作品はギャラリータグボートさんで販売しているので、のぞいていただけると嬉しいですよ!
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