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アートを買うといいことあるの?~コレクターの気持ちを読み解く

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アートを買うといいことあるの?~コレクターの気持ちを読み解く

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プライバシーが守られる空間があると落ち着く。好きな服を身にまとっているとそれだけで自信がつくよう。おいしいごはんは明日への活力を与えてくれる。生きるための信念を与えてくれる言葉は、本として持ち歩ける。
じゃあアートは?人にとってアートは必要なのだろうか?なぜ人は、アートを買い求めるのだろうか?いくつかの現代アートにまつわる本から、コレクターの気持ちを読み取ってみた。

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アートコレクターがアーティストにとって重要なワケ

アートを見る層と買う層はまったく別の種類の人間だと言っていい。美術館やギャラリーに足しげく通う人がイコール、コレクターなわけではない。コレクターとはつまり、アートを買う人なわけで、アーティストにとっては活動を支えるための非常に重要な存在の人たちだと言える。
その中でも影響力の強いコレクターは「リーディングコレクター」と呼ばれる存在で、その人が買うと「この作家、今後くるかも!」ということで一気にマーケットが広がっていく。また、美術館に多額の寄付をする評議員や作品寄贈する人たちに買われると、ゆくゆくは美術館にコレクションされる可能性が高くなる。そういう意味でも影響力の大きいコレクターのもとにコレクションされることは、現代アートの作家にとっては将来を分けるような死活問題とも言える。

ロンドンのギャラリー、ホワイトキューブでは、プレス責任者がギャラリースタッフ全員にアーティストの作品とアーティストが目指すものを説明する。これにより、ギャラリースタッフを介して、アートコレクター、作品を見に来たお客さん、メディアなどに対し、広くアーティストの表現が伝わっていく。
こうした流れを考えても、自作を分かりやすく説明できれば、自分以外に作品のことを広めてくれる人が増える。それは作品の広がりを後押しすることになる。
さて、それではコレクターはなぜ、アートを買うのだろうか?

参考リンク  現代アートビジネス(小山登美夫著)

1)節税とお金儲けのためにアートを買う

最初に思いつくのがこれ。税金対策と投機目的。
日本でも2015年の法改正により、購入金額その他の状況により、アートも「経費」として計上できるようになった。これから価格が上がりそうなアーティストの作品をまとめ買いし、10年くらい経って100倍になったら売却する、みたいな話も聞く。
別にアートは好きじゃないけど、節税になるし、もしかしたら今後、大きくリターンが返るかもしれない。だからアートを買う。実に分かりやすい理由だ。

参考リンク  美術品の購入費用は会社の経費に落とせるの? 巨大化する現代アートビジネス

2)自慢したいからアートを買う

アートに金銭的な価値がつくのは、その希少性が維持されてこそ。

すでに亡くなった作家の作品は、これ以上増えることはない。ちょっとお金持ちになって大きな家に住み始め人を呼んだ時に「あ、これアンディー・ウォーホル!本物ですか?」「うん、本物だよ。こないだオークションで80億で買ったんだけどね」とドヤ顔で自慢できる。これもアートを買う1つの理由。特に欧米では大きく稼げたらその分、社会に貢献すべきだという考えがある。美術館を建てるというのは、アートの発展、文化に貢献していると示せるため、イメージもいい。

巨大すぎる家を埋めるのにちょっとアートでも、と考えるような桁外れの大金持ちが世界には存在するらしい。8人の金持ちが世界の全資産の半分を所有しているという話もある。しかし、コレクターがアートを買う理由がこれら2つだけであれば、売れるか分からない新人アーティストなどとても扱ってもらえない。安い価格の作品では、大した節税にもならないし、今後価格が上がるか分からなければ、投機対象にもならない。もちろん、名前が知られてなければ自慢にもならない。
マーク・ジェイコブズは「現代アートが与えてくれるものは非常に大きく、その影響力も甚大で、私たちの生き方にまで関わってくる」というコメントを残している。現代アートが「必要」とされるのはなぜだろう。

参考リンク  この8人の大金持ちは、世界人口の半分と同等の資産を持っている

3)全く考えもしなかったことに対する「気づき」がある

美が発見される前の私たちの目はそれを知覚せず、世界は狭いものであった。

これは精神科医でアートコレクターでもある高橋龍太郎さんの言葉。
写真みたいな作品が「美」とされていた時、抽象画は「美」と認識されていただろうか。今さっきゴミ箱に捨てたゴミからでも、現代を生きる私たちは「美」を見出すことができる。認識している世界を広げること、それはアートの役割の一つだ。高橋さんは、世界のアートファンのほとんどが「アートに自分や社会を変えてくれる強い力を求める」と言っている。
コレクターが期待しているのは、「予測を超えたものに出会うこと」
つまり、今までの世界の見え方をまったく変えてくれるもの。自分の世界を丸ごとひっくり返してくれるものを求めているのだ。

参考リンク  現代美術コレクター(高橋龍太郎著)

4)アーティストを育てる楽しみがある

マイアミに美術館をもち、世界有数のアートコレクターでもあるルベル家。
彼らはアーティストのスタジオに訪問する最初のコレクターになり、作品の最初の買い手になり、作品を最初に展示するのが自分たちの楽しみだと言っている。
夫妻は「若手のアーティストには純粋さを感じる。1回めか2回めの展示会で購入すると、アーティストが自信をつけ、アイデンティティを確立していくプロセスに自分も参加することになる。単に作品を買うだけでなく、作品と一緒に、誰かの人生とその人生の行く末に投資することになる。お互いに深く関わり合うわけだから、とても真剣。アーティストに会って、作品が台無しになることもある。作品の素晴らしさも偶然に思えてくる」「私たちが探し求めているのは『誠実さ』」と語っている。
若手アーティストの場合、現在の作品だけでは将来性まで判断がつかない。そのため作家の人柄や熱意を見て判断することもあるだろう。
「歴史的スターをつくれる」
これがアート購入、特に若手作家の作品購入の楽しみではないだろうか。

参考リンク  現代アートの舞台裏 5カ国6都市をめぐる7日間(サラ・ソートン著)

5)「現代」がどのような時代か知るために買う

同時代を生きるアーティストのつくる作品が、今、自分が生きている国のすべてを象徴している。

フランシス・アリスの1997年の作品で「実践のパラドクス1(ときには何にもならないこともする)」というのがある。氷の塊を溶けてなくなるまで押し続けるという映像作品だ。この作品は「1日中働いても手元に何も残らない」ことを表している。時代を表象するアートは、自分がどんな時代を生きているのかを客観視させてくれる。客観視して気づけた、ということは、「変えることもできる」ということだ。

参考リンク  「実践のパラドクス1(ときには何にもならないこともする)」

高橋さんは「同時進行で美がつくられていっているのが現代アート」とし、「クオリティの高いアートがあるかどうかは、都市のブランディングをかけた闘いとなっている」と語っている。
事実、ニューヨークなど最先端のアートが集結する町には「何度も行きたくなる」
自然の美しい町、世界遺産の建造物がある町、なら一度行けば十分。次は別のところに行きたい、となることも多いはず。しかし、ニューヨークは何度でも行きたくなる。ニューヨークに行きたい人が求めているのはやはり、「自分を変えてくれる圧倒的な刺激」ではないだろうか。

また、スイス人キュレーターのテオドラ・フィッシャーさんは、「同時代人には理解されずとも、未来に向かって新しい表現を試みていると評価できる作品を買う」と言っている。次の時代を予感させるもの。現代アートにかかっている期待は、一つ先の時代を現代におろすこと、未来を垣間見させることだ。

6)永遠の美を手にする

一度アートをコレクションすれば、その美は維持されるばかりか、年とともにその美しさや素晴らしさは増していく。(中略)永遠の美しさを手元に置いておくことができる。アートコレクションは現代の魔術と言っていいだろう。

コレクターの高橋さんはアートを購入するというのは美しい女性と付き合うことに似るという。付き合ってみなければ、人もアートもその美しさを十分堪能できないと。女性は老い、いずれ失われるが、アートは変わらずそこにある。「美」は自分自身を若返らせてくれる。
「好きな作品を好きに買う」
そういった純粋な気持ちは恋愛に似る。愛するものに囲まれて暮らすという生き方。自分の選び取った「美」がコレクションとしていつでも自分の周りにある。アートのある暮らしというのは「美」の中で生きるということだ。

コレクターはどうやって作品を買うのか?

次に、アートコレクターが作品を買う時の買い方についてみていこう。
高橋氏は「最低でも3回個展をやったあたりから作品が充実してくる」ので、3回目の個展から買いに出るのが安全な現代アートの購入の方法だろうと提案している。また氏は、コレクターを国の文化の担い手とし、その国のコレクターが継続して買い続けて作品の価格を上げていかなければ、現代アートシーンを活気づかせるのは難しいと語っている。
コレクションを充実させる人の中には、気に入ったアーティストの作品は安いうちに3点購入。1点は人気が出て値段が上がったときに売り、新たに気に入ったアーティストが出た時の購入資金にする。もう1点は、その作品よりも自分がほしい、よりよい作品が出てきたときに売るか交換する。一番気に入った1点は自分の手元にずっと置く。こういった方法を繰り返しながら、自身のコレクションの純度を高めていくというコレクターもいる。

参考リンク  その絵、いくら?現代アートの相場がわかる(小山登美夫著)

こういった買い方はずいぶん戦略的だ。単に好きなものを集めたアートコレクションというわけではなく、自身のアートコレクションそれ自体が「価値」をもつようにデザインしていっている。そうしていずれ、自身の名を冠した美術館を建築。コレクションの紹介と作品の保存を合わせた機能をもたせた美術館だ。こうなるともう、ふつうの人のコレクションのレベルではなさそうで、自分には無関係にも思える。しかしコレクターには、会社員勤めでコレクションをつづける宮津大輔氏や、ハーバート&ドロシー・ヴォーゲル夫妻という先人もいる。
郵便局員のハーバートさんと図書館司書のドロシーさんは、ありふれた暮らしの中で4000点以上の現代アートをコレクションした大コレクターだ。値上がりした作品を数点売れば大金持ちになれたであろうところ、彼らはすべての作品を美術館に寄贈した。その後、2人はニューヨークの1LDKのアパートで年金生活をしていたという。

参考リンク  アートの答えは1つじゃない 米異色コレクターの教え 映画「ハーブ&ドロシー」監督に聞く

コレクターはどういう時に作品を売るのか?

コレクターがアートを売る理由として知られるのが3D(Death/死、Debt/借金、Divorce/離婚)。先述した3点買って上がってきた時にDeal(売る)するというのもの売り方の一つだ。生活の中にアートがあると、その作品に自分の人生が乗り移っていく。思い入れがある作品は、購入者にとっても売りがたいものになる。

いかがでしたでしょうか?今回の記事は現代アート関連の書籍の中でもコレクターにまつわる話をまとめました。詳しくは書籍をチェック。

合わせて読みたい  現代アートについて考える~初心者の第一歩から海外展開まで役立ち記事まとめ


みじんこは、アートのコレクションについて学びます!ヽ(=´▽`=)ノ

みじんくん と みじこちゃん

「集められたいよっ。」
「集めちゃうよー」

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