アート作品の説明というのは、人によってはナシがいいという人もいます。先入観を持たずに見たいと言ったところでしょうか。ただ、ギャラリストやアート関係者に作品を「分かってもらう」ためには、作品の良さを自分で説明していく必要があります。では、何から説明していけばいいのか。今日はそこを考えてみました。
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見る人が最初に気になること
アート作品を見た時、何が最初に気になりますか?なんとなくいいなー、なんとなくピンとこないーで済ませずに、自分が見た時に何が気になるかを考えてみましょう。東京画廊・山本豊津さんの著作にあったように、だいたいは下記3点が気になるポイントです。
1)素材は何か
2)どんな技術で作ったのか
3)どういう意図で何を表現したくて描いているのか
つまり、何でできてるんだろう、何が描いてあるんだろう、なんでこれを創ったんだろう、ですね。
✓ 参考リンク 東京画廊・山本豊津氏の著作から学ぶ現代アート/前編~アーティスト向け学習ポイント
パッと分かんないことから話す
こちらは私の作品です。
パッと見、アクリル絵の具で描いてるのも分かるし、抽象なのも分かる。だとすると、気になることは3)なんでこれを創ったか、しかないんですね。変わった素材を使っているなら「これは実は○○でできてるんですよ」からスタート。パッと見分からないものを描いているなら「実はこれは文字なんです」「実はこれは人の顔なんです」と説明していく。あとは変わった創作方法、「筋トレしながらつくってるんです」「口で描いているんです」そういうのも言われないと画面だけでは分からないので話す。
この作品の場合は、一番見て欲しいところは部分割された作品が全部つながっていること。なので、まず「つながっている線」に注目させます。ここが一番の引きポイントなので、作品の中で一番コアなポイントについて伝えます。この最初の一歩は、誰でも分かるようなポイント、誰でもイメージがつくようなポイントを話すといいです。たとえば「筋線維の流れを忠実に再現したんですね」と言われても、そのすごさも分からないし、共感もできないですから。もしこういう専門的なことを作品に盛り込んでいるのであれば、「ササミ肉って裂けますよね、あんな感じの筋肉の流れを表現してるんです」とか誰でもイメージがつくことを添えるといいです。
自分の作品はなんの役に立つのか
素材、技術、コンセプトを軸に話すと言っても、必要な視点は「誰の役に立つか」
山本豊津さんはこう言っています。
社会の中でどういう意義と意味があるのか、そうした開かれた視点と判断がなければ、多くの人が共有できる価値とはならない。
✓ 合わせて読みたい アートは資本主義の行方を予言する(山本豊津)
村上隆さんも芸術闘争論の中で「芸術の世界で取引されているのは人の心、アーティストの目的は人の心の救済」と言っていますが、これも社会と自分の作品との接点と考えられます。だから、「道端の花に感動した気持ちを表現しました」は現代アートとしてはダメなわけ。個人的な感動ですから。同じ作品だったとしても「私たちはバーチャルな世界に慣れ過ぎて、目の前にあるリアリティ、目の前の花に感動する心を忘れている。この作品では一輪の花に心動くその感動を絵に閉じ込めることで、改めて人の心を花に向けさせようとしているのです」だとしたら、他の人にとっての意義が出てきますよね。
それを聞いた人が、「ああなるほど、そういえば家の前にタンポポが咲いてたけど、よく見ることもしなかったなぁ」と気づく。その作品に出会ったおかげで、ささやかに誰かの人生を変えますよね。アートの意義はこういうところにある。オレ様のすごい表現力を見ろっていう自己中心的な作品であるなら、あえて他者に見せる必要はないのではないでしょうか。
こうして誰かの役に立つか、という視点で考えていくことによって、道端の花の作品もキャンバスに描くだけでなく「身近なものに目を向けさせるにはどうしたらいいだろう」「壁に描いてみよう」「石に描いてギャラリーの隅に置こう」 そういうアイデアが生まれてきます。
もとが獣医だった私は、「治療の代わりになるアート」というのをテーマにこれまで作品を掘り下げてきています。
プラセボ効果という思い込みの力が人にはあるので、最初は「体験できる」アートをつくることで、鑑賞者に創る喜びを提供した。積み木で遊ぶような感じで、みんな好きにいじり始めるんですよね。単純にただ色を塗るだけ、というのも病院での活動を通じて非常に癒しにつながるのだと実感しています。
しかし、自作を通じての体験だけだと、癒しの範囲が狭いのではないかという考えにきつきました。また、世の中には楽しい体験はたくさんあるから、何も自分の作品でなくてもよくなってしまう。そこで、つながりを感じさせるような作品をつくることを考えました。
幸福について研究している前野先生の話では、人は1)つながりと感謝 2)自己実現 3)楽観的 4)独立とマイペースの4つの因子があると、幸せを感じるそうです。作品を通じて他の人の存在、他の人とのつながりが実感できれば、日常を生きていても、ささやかなつながりに気づけるのでは。それは癒しにつながるだろう、そういう考えです。
✓ 参考リンク 「幸せの4因子」を満たしていけば、幸せなまち、企業、社会を創ることができます。
現在では、人の癒しには暮らしている「環境」が重要だと考えています。つまり社会ですよね。一過性に映画を見たり音楽を聞いたりしても、環境と自分自身が満たされていなければ、なんとなく落ち着かない想いをしつづけてしまうことになる。他に、人が最も苦しむのは「身近な人の死」と言われているので、世界から死をなくすにはどうしたらいいのかなど、複数の視点から「人の心の癒しになるアート」を模索しています。
ちなみに、私は人類最高のアーティストはブッダだと考えています。2500年くらい前に考えたことが、今でも人の支えになっているってすごいなと。以前、仏教の僧侶さんに話を聞いたことがあるのですが、仏教の教えは答えなわけではなく、「で、どう思う?」という問いなんですって。私はアートは結局のところ問いかけだと思っているので、こういうところもアーティスティックだと感じます^^
自分の作品は、周りの人のどんな役に立てるだろう、その視点から最初の一歩を考え、作品に工夫を加えていく。まずはそこから。
✓ 合わせて読みたい 現代アーティストになりたい人のための~初心者の第一歩から海外展開まで役立ち記事まとめ
みじんこは、幸せです!ヽ(=´▽`=)ノ