タイトルに「子どもの」って書いてますが、VTS(Visual Thinking Strategies)は大人にも使える鑑賞法です。
「分からない」「正解がない」アートだからこそ教えられること。何か問題が起こっても、自分で考えて解決する力を鍛える方法がこのVTSです。
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VTSの生まれたきっかけ
VTS(Visual Thinking Strategies)は1991年からニューヨーク近代美術館(MoMA)で始められたアート鑑賞法です。
MoMAのギャラリートークの直後、参加者に印象に残ったことについてのアンケートを取りました。なんと、トーク終了後にも関わらず、参加者はなんの作品を鑑賞したのかすら忘れており、トーク内容を正確に覚えている人もほぼいないという残念な結果が出ました。
「せっかくトークしたのに誰の記憶にも残ってないじゃないか!こりゃやべー!」という思いから開発されたのがVTSです。
難しい作品解説は初心者には意味がない
「この時代は吉原治良(よしはらじろう)が具体美術宣言を出したころで、吉原は具体美術は物質に生命を与え、物質を偽らないとしたんだ」っていきなり言われても意味が分からなくないですか?「ハイ?物質を偽らない?そもそも物質を偽ってるってどういうことーーーー???」ってなりますよね。
こうした難しい作品解説があっても、なんとなーく脳内を通り過ぎて去っていくだけ。分かってないものは心にも残らない。じゃあアートを楽しむには勉強しないといけないのか?自分のやりたいことがいっぱいある中で、アートに時間をさけない人も多いはず。おもしろそうなものを見て楽しむために来てるのに、わざわざ机で勉強してから行くなんて、そんな面倒なことやってられるかーーー!
しかし、アートの知識がまったくゼロでも使えるのがこのVTSです。
VTSでは鑑賞者が「何を知ったか」ではなく、「知っていることをいかに活用したか」に着目しています。
✓ 参考リンク 具体美術宣言
子どもに見られたVTSの効果
VTSは、まだ字が読めない幼児を対象に展開することもできます。
ある子どもの例では、
1)物事を時間をかけて観察し
2)好奇心を持ち
3)他の人が話していることに耳を傾け
4)わからないことを質問し
5)自分にとって興味があることを吸収
というプロセスで好奇心をもって観察力・思考力を鍛えていく様子が見られました。
VTSのファシリテートのポイント
まずは参加者に「絵をよく見て、ここでは何が起こってるだろう?」と伝えます。これによって鑑賞に積極的に参加するよう促します。
次に「絵を見て感じたことはなに?」とどんな意見でも言ってもらいます。また、そう思った理由も一緒に聞きます。
「かわいいと思った。モグラみたいなのがいるから」
あらゆる意見を否定せずに、他の子たちからもいろんな意見を聞くと、自分では気づかなかった意見が出てきます。あるいは、同じ事柄に関しても自分とは違う意見が出てきます。
「ちっちゃい生き物みたいなのがいるけど、顔から直接、手足が出てるみたいで気持ち悪い」
ファシリテータはそれぞれの意見の関連性を示しながら、さまざまな可能性について考えさせていきます。
- 作品をよく見る
- 観察した物事について発言する
- 意見の根拠を示す
- 他の人の意見をよく聴いて考える
- 話し合い、さまざまな解釈の可能性について考える
通常、アート作品の中には分かりやすい情報(生き物が立っているなど)とすぐには分からない要素(ヘンな模様がいっぱいある)が同居しているので、それらを手掛かりに作品を解釈していくという過程が、問題解決の方法そのものになります。
自身で解決できること、考えることを学ぶ
ファシリテータが中立の立場でいると、子どもたちに「わからないことがあったとき、誰か(教師・専門家・親)の助けがなくても自分で解決することができる」というメッセージを伝えることができます。
VTSを通じて、自分とは反対の意見に触れることで、これまでとは違った見方を取り入れられるようになる。すると、反対意見が脅威でなく価値あるものに変わり、多くの問題には複数の解決策があることが分かってきます。
思考力を鍛えられるVTS
一通り話し合った後のまとめはVTSには必要ありません。VTSは「考えることを学ぶ」ものだから。
もし、お子さんと一緒にアート作品を見に行くことがあったら、「作品見てどうだった?」「どうしてそう思ったの?」「お母(父)さんはこう思ったよ」「理由はこうだから」「他に何か気づくことはある?」と質問を投げかけてみてください。
考える力、他の人の意見を聞く力、自己表現力、コミュニケーション力などが自然と鍛えられますよ!
✓ 参考リンク 学力をのばす美術鑑賞 ヴィジュアル・ シンキング・ ストラテジーズ: どこからそう思う?
さらに詳しい内容は書籍で!と言いたいところですが、本のまとまりがあまりよくなくて、若干分かりにくいです。そこそこ金額のする本なので、買う前に熟考を^^
VTSの方法自体はかなり魅力的で、「どう感じたか聞く」というのを自作の発表の際にもやっていきたいなと思っています。展示する側のアーティストにとっても、さまざまな思考が自作をきっかけに生まれていくのが分かるのは面白いのでは。
✓ 合わせて読みたい 現代アートについて考える~初心者の第一歩から海外展開まで役立ち記事まとめ
みじんこは、アートを日常に役立てたいです!ヽ(=´▽`=)ノ