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ハシグチリンタロウ作品を徹底分析してみよう vol.2~言葉を初期化するということ

  • 4月 11 / 2019
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ハシグチリンタロウ作品を徹底分析してみよう vol.2~言葉を初期化するということ

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他者作品を丁寧に読み解く分析シリーズ。今日はハシグチリンタロウさんの作品から言葉の自由度について考えてみました。言語がシステム的に整備された今、新しい言語というのは日本語でも英語でもないところから発展していくのかもしれないですね。
※作品画像は本人のSNSから勝手にダウンロードです(クレーム受付中!)。

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分解された言葉

こちらの作品のステートメント、うろ覚えなんですが確か言葉をパーツに分解したものだったかと(←確認しない)。こちらを一言で表すなら「言葉の初期化」かなと思っています。生物学っぽい用語を使うなら「言葉を未分化な状態に戻す」という感じで、自分としてはこちらのほうがしっくりきます。STAP細胞とか多能性幹細胞とかiPS細胞とかいう名前を聞いたことがあるでしょうか?これらの細胞は「なんにでもなれる」可能性がある細胞なんですね。なので、初期化というよりは、「なんにでもなれるようになった言葉の種」みたいなイメージです。

言葉が極相化した

極相という言葉があります。風の谷のナウシカの原作に出てきて知ったんですが、生物の群れのあり方が安定してきて、集団として平衡状態にある様子のことを言います。ナウシカの腐海の最終形態がそんな感じで太古の神殿みたいになっている。知らない人は今すぐ原作を買っちゃいましょう↓笑

現在の言葉というのは、この極相に近い状態にあるかなーと私は考えています。もちろん、新しい言葉は生まれるけど、数年で「古くなっていく」。それ以上に言いたいのは「新しいひらがな」みたいなのが、もう受け入れられない状態にあるってことですね。日本のひらがなって平安時代に生み出されたと言われてますが、それまではなかったわけです。日本には「r」がないから、その音を表す新しいひらがなをつくるぞ!2020年は新ひらがな元年だ!と新ひらがなを20個くらい考案しても、絶対に採用されない
それはシステムがすでにしっかり定まってしまったから。ひらがなが今から20個増えたら、学校教育を全部変えないといけないし、フォントも増やさないといけないし、多くの人が不便になる。つまり、使っている人が少ない間は改変がいくらでもできたけど、多くの人が「共通言語」として使うようになったからこそ、根本の改変はできなくなってしまったということ。

視覚としてのオノマトペ

じゃあ、言葉の自由度は失われてしまったのか。日本語の中でいうなら、私はオノマトペに可能性を見ています。「しとしと」「メラメラ」とかはこれだけで地位を得ているので、文脈がなくても意味が分かります。しかし、「雨がトトト、トトと降り続く」と言われても、初めて聞くオノマトペなのに、なんとなくの雰囲気は感じ取れるはず。少なくともザーザーじゃない共通認識はもてますよね。ただ、これは外国人にはなかなか難しい感覚なので、生息地限定の言葉になります。湿潤気候の日本では生きられる生き物(言葉)だけど、砂漠にいくとすぐ死んじゃうみたいなやつ。

ただ、オノマトペは音+視覚にした場合にもっと世界共通言語化する可能性はあるな、と思っています。それは漫画から見てとれるんですね(マンが大好きです!)。
日本の漫画が最初に海外に輸出された時、絵柄が反転されてたのをご存知でしょうか。これは読む向きが日本と英語圏で違うからですね。日本の漫画は右から左に読む。縦書きだからです。しかし、英語の場合は左から右に進むのが基本なので、絵を全部反転させて左から右に進むように直してたんです。ただ、そうしてしまうと、物語として整合性が取れない部分が出てきてしまうし、ドラゴンボールの「亀」マークみたいに漢字が使われているところは反転で逆向きになってしまいます。
そのうち、漫画は反転なしでもとの状態のまま輸出されるようになった。で、一番左の通常、英語本のスタートにあたるページには「STOP、こっちは最後のページや!」という注意書きページが最初に入ってるんですね。それでコマはこの順番で読んでね、と絵柄で説明されてある。ちなみにオノマトペは英語に直されてることが多く、BAAANとかfwap fwapみたいなのが日本語のオノマトペと入れ替えて描かれている。しかしですよ、一部の漫画には、オノマトペの効果音が日本語のまま改変されてないようなのもあるんです。戦ってるシーンでガガガガガガガみたいなのが激しい書体で表されている。これは音が読めなくても視覚で伝わるようなんです。戦闘シーンのオノマトペって、手書き筆文字とかシーンの雰囲気をけっこう考えて描かれているので、既成の文字みたいなのに変えても雰囲気が損なわれちゃうんですよね。なので、作者さんにとってはそのままのほうが嬉しいかもしれないけど、果たして外国人に伝わるのかなと。しかし、外国人の友だちに聞いた限りでは伝わるっぽいですね。もちろん、人によるかもしれませんが。
もともと海外ではオノマトペ表現が日本より少ないので、たとえば首を振る「ブルブル」みたいな音が「shake shake(揺れる揺れる)」みたいな動詞として表現されています。これが日本人視点から見ると説明的すぎる気もしちゃう(こうやって表すのかと思うのはおもしろくもあるけど)。こうして考えると、オノマトペが発達している日本は、平面で動きを表す、平面で劇画をつくるのに適している文化だと言えそうです。

 ←DADA MVより

漢字を組み合わせて新語をつくるみたいなのは、あちこちで見かけますね。たとえばRADWIMPSのDADAのMVや東京喰種の「オッガイ」っていう漢字が合体形です。ただ、漢字については元祖が中国なので、どうしても日本発祥だと言い切れない自分がいます(可愛いなどの一部の言葉は日本発祥で中国でも使われているそうです)。

参考リンク  オッガイ|漢字の意味について

顔文字の可能性

だいぶ極相化してしまった日本語ですが、コンピューターという新技術のおかげで新しい文字も台頭してきました。その代表は顔文字
海外の顔文字って横書きなのをご存知でしょうか? :)こんな感じですね。にっこり笑ってる顔が横向いてるんです。なので、:)だけ入力するとある種のメッセンジャーだと自動的に絵文字になったりします。単に横向いてるだけなんですが、私は最初なんだか分からなかった。日本語の顔文字が縦向きだからですね。スイス人に日本語の顔文字をメッセしたら、やっぱり分からないと言われたことがありましたが、説明したらすぐ分かってもらえました。逆の現象が起きてますね。ちなみに、ドイツ人に顔文字一覧みたいなのを見せたら、全部意味分かると言ってました。唯一分からないと言ってたのが<m(__)m>←このおじぎしてるやつでした。顔文字はたぶん、種類が増えても分かる。拡張性のある言語です。

アスキーアートみたいなのもありますが、これは言語というより「絵」な気がするので、言葉ではないような感覚が私にはあります。でも顔文字はもっとシンプルに気持ちを表しているので、言葉としての感覚が強い。ちなみに、ドコモの絵文字がニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されているのをご存知でしょうか?永久収蔵品だそうです。MoMAではインベーダーゲームが展示されてたこともあり(プレイもできる)、数年前は家具っぽいのがいっぱいあったこともあり。それ自体がアートと名乗っているいないに関わらず、歴史上の転換点になったものを集めている印象がありますね^^ MoMAの姿勢、好きです^^

参考リンク  AA変換(アスキーアート生成) ドコモの絵文字、MoMAに収蔵 「すごいことすぎて現実感が…」生みの親の思い

芽吹く前の種としての言葉

さて、言葉についていろいろ考えてきましたが、システム化したおかげで全体が均質化したのはヒトも同じです。同じ年齢で同じように学校に行くことで、ある程度の学力は担保されるようになった。日本の識字率は99%以上ですから。言葉によって知識共有し、目的共有することにより、社会が発展しやすくなったのは確かです。ただ、これからの社会では新しいひらがなをつくるようなイレギュラーなもののほうが待ち望まれている。極相化してた状態がテクノロジーの発展もあり、急速に崩れているからですね。
そんな中、未分化な状態に戻った言葉の断片は、何に変わっていくのか。ここから新しい言語としての「形状」が生まれるかもしれないし、「色」が生まれるかもしれないし、「音」が生まれるかもしれない。ハシグチ作品からは、未来の言葉を想像する萌芽を見るような楽しみがあります。

自分自身を規定する言葉の破壊

最後に、言葉というのはもう一つ、重要な役割があって。それは自分自身をつくる型としての役割です。今まで自分が着たことがない服を着ると、違う自分になった気がすることってないですか?そんな感じで、いつも使っている言葉は「自分がどういう人間なのか」を規定します。
「みんなぁ、今日は来てくれてアリガト!とってもうれしいにゃん!」
「全員、俺様の書の前にひれ伏せ、愚民ども!」
↑ 全然違うキャラですよね。つまり、どういう言葉を普段使っているかで、自分自身が規定される。いつも使っている言葉の選択を変えてみる。それらをいったん崩してみることで、自分が知らずにつくりこんでいた型を壊して自分を再定義できるかもしれない。作品をよく見ていただけると分かるのですが、分解された言葉のはずだけど、組み合わさって1つの画になってる。これで1つの言葉みたいになってる。顔文字だって記号の集まりですが、集まって1つの意味をつくってる。もとの記号の意味、数学的な意味を取り払って分解再編成されて生まれた文字ですよね。そこに文字の自由さがある。漢字の分解再編もそうですが、こちらは元のパーツの意味は残っていることが多い。一度バラバラにして組み立てた自分というものは、どんな存在になるのか。そんな示唆を与えてくれる作品なんじゃないかと思ってます^^

ハシグチ作品についてのお問い合わせはこちらへ  現代アート 工芸 ギャラリー Gallery Nao Masaki

今回は、言葉の初期化という観点からハシグチ作品にアプローチしてみましたが、次回はまた別の側面から考えていきたいと思います、お楽しみに!^^

合わせて読みたい  ハシグチリンタロウ作品を徹底分析してみよう vol.1~感情というリアルな言語 現代アーティストになりたい人のための~初心者の第一歩から海外展開まで役立ち記事まとめ


みじんこは、発展しちゃうよ!ヽ(=´▽`=)ノ

みじんくん と みじこちゃん

「破壊しちゃうよっ。」
「生み出しちゃうよー」

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