アート愛好者の多い日本。同時にそれが「オレはアート(という高尚なものが)分かるけど?」という意味不明な差別意識につながっているのも確か。純粋にアートが好き、がんばっている若手作家を応援したい!という謙虚なアート愛好家としてできることを考えてみました。
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良いアートとは「気になるが説明できないもの」
現代アートの世界で「良い」とされるアートは時代の数百年先を見ているものだと言われています。言うなれば、タイムマシンで200年後の未来からやってきてしまったようなもの。
今から200年前というと、日本では伊能忠敬が測量を始めたころ。将軍は第11代となる徳川家斉。幕末の混乱が始まるのが1860年頃です。その頃に「インターネット」について説明しようとしたら、当然誰も理解してくれないし、大バカ呼ばわりされるでしょう。
今、私たちが当たり前に目にする抽象的な絵画も、はじめて出てきた時にはそれと同じだったのです。
想像してみてください。写真のような作品が素晴らしいとされている時代に、いきなりデッサンも何もなさそうな絵が出てきたら?
「こいつは絵が分かってない」「描けないのをごまかしてるだけ」
最初に抽象画を描いた人の周りには、そういう批判であふれたはずです。しかし、彼らがそれをつづけ、後につづく作家がいたからこそ、徐々にその素晴らしさが理解されてきた。そして現在の私たちは、まったく批判を浴びることなく、いくらでも抽象的な表現ができるようになったのです。
このように時代の最先端をいくアートは現在の人には良いのかどうかすら分からないのです。しかし、その先見性により人を惹きつける強力な力があります。
「気になる、しかし分からない」
真に素晴らしいアートはそのようにしか言えないのだ。それが私の師匠である美術批評家、海上雅臣氏の言葉です。
海上氏は棟方志功、井上有一などのアーティストを推し出したギャラリストでもあります。2011年に出会い、2013年に私が初めて個展をしたのがこの海上氏がオーナーを務めるUNAC TOKYOでした。この出会いの話はこちらの記事にまとめているので、もしよければご覧ください。
しかし私は今回、師匠のこの意見にあえて反旗を翻そうと思います。
「気になるが分からない」
これを悪用するがゆえにエセ目利きが出てきてしまうのだと。今日は謙虚にアートを見る目を育てる方法を考えてみました。
✓ 参考リンク 31歳で獣医をやめなんとなく絵を描き始めてから家賃0円のクリエイターズシェアハウスに受かるまでの話 現代アートをちょこっとディープに楽しむ!Ouma流6つのアート鑑賞ポイント
ちなみに私自身は作品を通じ「自分という個人はもともと自分自身の所有物ではないのだ」というのを主張しようとしています。この感覚は100年後にはもっと一般化していると思っています。
1)「良い」と思う理由を言う
最初がこれ、理由を言う。理由が言えないけど気になってしまうのが良いアート、と言いますが、これがエセを生む根源ではないかと。つまり「しょっちゅうアート鑑賞しているオレは感性が育ってるからわかるけど、キミには分からないよね?」という欺瞞を生むと。
私がまったく知識のないイプシロン-デルタ論法の勉強会に頻繁に参加したところで、分かった気にすらなれないのは自明のことです。実際に彼らの中に入ろうとすれば、やっている人たちにあっという間に「こいつ分かってない」と見抜かれるはず。
ですが、アートの世界は「感性」で語られるせいで、「オレ分かってる」を装うことができてしまうのです。
これをやめて、「なぜ良いと思ったか」理由を言う。こうすれば少なくとも装うことはできなくなります。
絵のバランスがいいと思った、線に勢いがある、色に情熱を感じる
言ったことが本当に的外れで「いや、これはバランスを崩して描かれてるんです」ってことが起こるかもしれない。
それならそれで「そうか、バランスを崩して描くとこうなるのか」と新しく知ることができます。
「私はここが素晴らしいと思った」
その意見が、その業界ですごく有名な批評家と違う意見だったとします。
たとえそうだとしても、あなたの意見が間違っているわけではありません。
なぜなら200年先までどのアートが残っているかなんて、誰も分からないのです。現在、世界的に有名な草間彌生ですら、200年、300年後にその名が残っているかどうかは分かりません。もしかしたら誰も知らなくなっているかもしれないのです。
美術の業界にいる人ですら、そこまで先の評価を読むことができない。もしかしたら有名なセンセイの評価でなくて、あなたの評価のほうが的を射ていて、あなたが推した作品がのちの世まで残るかもしれませんよ?
アートに良し悪しなんてないんだ、という言葉をよく聞きます。
アートに良し悪しがなくても、現在は「見る側に」良し悪しのフィルターがあります。「権威」がまさにそれです。
現在有名な作家の作品が絶対的に良いわけじゃない、偉い先生の意見が絶対的に正しいわけじゃない。
だからこそ、誰もがに対等に意見を言える世界で、そここそがアートに良し悪しがないという意味なのです。
2)理由を言うことでちゃんと「見る」
理由を言うからには、作品を丁寧に見なければいけません。ここが実は、アートを見る目を鍛える訓練になっているのです。
また「なぜ自分がこの作品を気になったか」を理由を添えて見ることは「自分を知る」ことにもつながります。
そうか、自分は情熱的な色合いが好きなんだ、勢いを押さえた優しいタッチが好きなんだ、と。
この鑑賞法はニューヨークのMOMAで開発されたVTS(Visual Thinking Strategies)に通じる方法で、思考力をつけるための鑑賞法を参考にした方法です。このVTSもおもしろいのですが、詳しくはこちらの記事(子どもの学力を伸ばす美術鑑賞法~思考力を鍛えるVTS(ビジュアル・シンキング・ストラテジーズ))から^^
↑この作品は私自身も含めてドイツ人アーティストの作品となっています。
3)相手の意見を「聞く」
これはいかなる時にも相手を対等に見ているということです。
私は2016年に初めて海外でのアーティスト・イン・レジデンスのプログラムに受かり、3か月間バルセロナに滞在していたことがあります。日本より暖かい冬に、ギャラリーオーナーでありアーティストでもある人と一緒にアトリエで制作していました。
隣で制作していると非常によく聞かれるのです。「こうやって作ってみたけどどう思う?」と。
これが私には非常に衝撃でした。なぜなら彼はすでに25年のキャリアがある作家で、私はまだ数年前にアートやりたいなと思い始めた程度の作家だったからです。
それでも私は思ったことをなるべく伝えました。「こういうコンセプトでいくなら、この切れ込みは同じ位置のほうがコンセプトは強まると思う」
彼は私の意見も考慮しつつ、自分の作品についてさらに深く考えを巡らせていきました。
✓ 合わせて読みたい 【みじんこTALK】第11回~バルセロナのギャラリーオーナーに聞く「良いアート」とは?
他にも、ドイツでレジデンスしてた時にはイギリス人のアーティストさんに言われました。
「ちょっと密度がありすぎるから空間を開けたほうがいいと思う。キツキツして息苦しく感じるよ」
アルジェリア人のアーティストはそれを聞いて「私はこのままのほうがいいわ、詰まってる感じがおもしろいじゃない」
NOと言えない日本人だった私は、何かを言われるたびに従わなければならないかと思って最初は焦っていました。でもそうではない。彼らはキャリアに関係なく、私をアーティストとして対等に扱ってくれていたのです。
未だに私は別のアーティストの作品に意見するのはためらってしまいますが、本来は率直な意見を言い合うことがアーティストを育てるもっともいい方法なのです。最終的に、あらゆる意見を作品に盛り込むかどうかは作家の判断なのですから。他者の意見に簡単に惑ってしまうアーティストは、自分自身が何を表現したいかを明確にできてません。
前述のバルセロナのアーティストさんは、かなりたくさんの意見を私に求めてきました。「それはおもしろいアイデアだね!」と毎回絶賛してくれたにも関わらず、私の意見は何一つ採用されなかったです笑。
ちょっと長くなりましたが、もしもアート鑑賞の際に誰かが一緒にいたら「相手の意見も聞いて」ほしいのです。
相手が初めてギャラリーにきたような人であっても。アートのおもしろさというのは、一枚の絵から得られるものが人によって全然違うところでもあるのです。それは他の人の意見を聞いてこそ得られることです。
アートを心から愛する人たちほど、自分の知識をひけらかすことはしないものです。
私は以前、あるギャラリーのオープニングで日本のコレクターにお会いしたことがありました。
「日本のトップギャラリーに通って勉強している」と伝えたところ、「それはいい方法だね」と言い、その人が買った作家のこと(著名アーティストですが、私は当時知りませんでした)やご本人が勧めるアートフェアのことを教えてくれました。
その時の展示で一番おもしろかったのはどれか?と聞いたら、私が目もくれなかった作品を良かったと言っていて、またその作品に「小さなマーク」があったのがおもしろかったと言っていました。私はそのマークには気づかず、後でもう一度作品を見直しに行ってきました。また、逆に私がいいと思った作品のことも聞いてくれました。
アート業界の誰もが知ってるような作家を知らなかった自分を恥ずかしく思いましたが、アーティストを心から応援する立場の人たちは、相手が知らないことをさげすんだり、知識自慢の材料にはしないのです。作家はそこから勉強すること、勉強する姿勢を見せることが大事です。現在はインターネットによって学べる環境があるのですから。
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アートを見慣れている人ほど、作品を見る目が細やかです。「聞く」ことによって相手がふだん、どのようにアートを扱っているのかを知ることができます。「感覚的にいいと分かる」を繰り返す人は本当にアートラバーなのか。本当に作品を見ているのか。
アートを単なる自慢に使わないよう、自分も気をつけていきます!
みじんこは、アートを学びつづけます!ヽ(=´▽`=)ノ