先日から好評連載中の書家・山本尚志さんへのインタビューシリーズ。アート作品の品質向上のために一番いいのは「いろんな人に作品を見てもらうこと、そこで出てくるどんなダメ出しにも自分を晒すこと」だという話がありました。
とはいえ、見込みがないと思われていることがひしひしと分かる「うん、まぁいんじゃない」と、まっすぐ突き刺さり過ぎる「全然ダメ」はそれなりにキツイ。そこを優しく諭してくれる人が周りにいるのはだいぶラッキーなんですよ。そんなわけで大勢に晒して痛い目を見る前に、こっそりできる作品の自己批評のし方を考えました。
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まずは画面づくりの自己批評から
今の「現代アート」は、主に「画面(外観)」「コンセプト(内面)」の2点で構成されていますが、今回は主に外観、画面の自己批評について考えていきます。
どれほど内面をつくり込んでいても、外観で足を止められないと、なんだかんだスルーされちゃいますので。内面を最初からしっかり聞いてくれるのは、仲のいい友だちかコンペの審査員だけです(笑)
まずはとりあえず作品ができた!っていうところからのスタート。参考に私の近作「ゾウリムシ – 第2世代」です。
1)コンセプトと沿っているかの確認
まずは自作が「とりあえず」できた後、自分の作品コンセプト(内面)と合っているか、というのを確認します。「こんなんやってどうなるかな?」から制作スタートしている場合には、単に自分が気に入った画面に留まっているので、自分の「作品」として出せるかどうかの判断をするということです。
「治療の代わりになるアート」がテーマになっている私は、そもそも治療とは何か、ということをアートを通じて突き詰めています。
具体的な手法として、私の作品は
a.見る人を巻き込む
b.繋がりを持たせる
ことを意識しています。
私の作品のつくり方としては、なんとなくこんなのやったらどうかな、でつくり始める時と、初期のプランをかなりつくり込んでスタートする場合がありますが、最終的に改めてここを確認します。
つくり込んでからのスタートは大型のインスタレーション作品に多いですね。
今回の作品は「ゾウリムシ」という売れ残ったら売れるまでつくり直すというシリーズ作品です。自分自身が気に入ってても強制的に作品をつくり直すので、作品の存続意義を作家でなく他者に委ねています。実際の生き物が環境に適応していくように、選ばれなかった生命(作品)が今後どうなっていくのか、私自身も分かりません。このシリーズはシリーズ全体としても世界観をつくっており、全体でも一つの作品となっています。
裏返すとこんな感じ。こちらの作品は別の作品が縫い付けられています。この縫い付けられているパーツは、1作品を4分割したもの。つまり、どっかの誰かが持っている作品と繋がっています。
こういう両面描き作品を4つにカットしたものを縫い付けています。
2)同じ手法を使えば誰でも同じに創れてしまわないか
次に確認するのがこちら。「誰でも真似できるかどうか」
みんなおなじでみんなダメw。
これが抽象画の弱点だと私は思っています。絵の具を垂らす(ドリッピング)・飛ばす、絵の具を付けた紙同士を合わせて剥がしてシワみたいな模様をつくるなど、熟練が必要でない方法は作品の雰囲気が似ます。つまり、別に自分じゃなくても誰でもつくれちゃう。そして厄介なのが、このそこそこ抽象はそれなりに心地よい画面が簡単にできちゃいます。おかげで目がくらむ。素敵にできた自分すごいと思いかける。
ここで自分に問いかけます、「これOumaの作品だって思わせるアイコンが入っているかな?」
独特のカラーバランス、独特の構図、自分なりの何かがあるか。他の作品に紛れても「これ、Oumaさんの作品ですよね?」って思ってもらえるか。
同じ理由でシンプルな幾何学模様を使う場合も要注意。円、面、角、幾何学模様。なんでもいいですが、シンプルな形状を使うものは競合が多いです。
ドットなんてもはや、今からやっても「草間彌生」としか思われない。黒の均一ラインで画面全体を埋めると何を描いても「キース・へリング」としか思われない。ビッグネームの影響、恐ろしきですよ。そして2人とも自分がすでに知っちゃってるだけに、影響を受けてないとは言い切れない。
あと多いのは、そこそこデッサンができる人が、軽く崩してつくる抽象っぽい具象みたいな作品。崩し方や色に個性を出さないとかなり似る。これもまた、そこそこいい画面に見えちゃうだけにタチが悪い。そこそこファンも付いてそこそこ売れるだけにタチが悪い。なぜならある程度で道が閉じちゃうのが予測つくから。
こういう簡単な技法、シンプルな形状、抽象っぽい具象は同じようなことをやっている作家を調べきれない。私はそういうリスクを負わない主義なので、こういうのをやる場合には一工夫入れます。
そんなわけで先ほどの
そんなわけでこちらも、このままでは完成としません。
1)のコンセプトと合わせて考えた結果、こちらの面にも作品を縫い付けることに。
こうして、単にほんわか抽象だけでないリズムが画面に生まれました。
他者の作品を見まくる
定期的にやっているのが他者の作品を浴びるように見る。作家の名前を全部覚えるような暗記テスト的なことは学習効率が悪いので、私は気に入った作品の作者から順に覚えて数を増やしているところです(勉強中)。それ以外に、とにかく浴びるように見て、脳に「どっかで見たことがある記憶」だけ残します。
具体的には、2017年3月にニューヨークのアーモリーショーに行ってきたので、そこで乱れ撮りしてきた作品を見返しています。アーモリーは選ばれたギャラリーしか出られないため、少なくとも現段階では「良い」と判断されている作品が出ているわけです。なので、そこに出てる作品とかぶってないかどうかをチェック。
あと便利なのはタグボートのトップぺージ。新旧作家が入り混じってまとめてサムネイルが見られるので、ざざっと浴びるように見るのに非常に便利です。
こうして見ていると、作家たちのレベルの高さに軽く打ちのめされて絶望していきます。少なくとも、この中で際立たないといけないわけですから。
しかし、「これほぼ同じだ、ひえー!」ってならない限りは公開します。特に私は作品における他者との関係性を重視しているので、何より出していかないと始まらない。
作品ができた後にやること
このような経過を経て、こうして両面描きの作品「ゾウリムシ – 第2世代」が完成しました!バンザイ!
手術痕がはっきり残っているのも特徴的。
ゾウリムシ – 第2世代/Slipper Animalcule -2nd generation
148×100mm, pen and acrylic with strings on paper, 2017
作品ができたらまずは販売に出します。
なんだかんだ、アーティストをやっている以上、作品が売れることほどの喜びってないと思うのです。なので売りに出す。
その時に必ず簡単な解説文をつけます。この作品の場合には
作品の不出来なパーツを病変部と捉え、病変部を覆うように、活きている別の作品を縫い合わせた作品。
めくれるパーツは両面のバランスを取るための緩衝材、輸液みたいなものです。
めくって中を見ることができます。
作品の裏にある作家の思考が分かりやすく伝わるようになるべく短く、がポイントです。
これはプレゼン対策でもあり、誰かに聞かれた時に短く解説するための練習にもなっています。
ここでも「誰かが言ってそうなことは避ける」が絶対条件です。
よくある例としては
- 愛を表現しました
- 自然の美しさを表現しました
- 平和を表現しました
- 宇宙を表現しました
- 戦争に対する悲しみを表現しました
- 生命の美しさを表現しました
- 死の悲しみを表現しました
- 好きなものを描きました
これを読んでるみなさんも、どこかで5万回くらいは聞いたことがあるセリフですね。
以前の記事、「アート作品鑑賞法」でお伝えしたポイントに「作品の解説を聞く」がありました。同じテーマ性をもっていても、考え尽くしている作家の言葉は「愛を表現しているんです」では終わりません。なぜ愛、どこが愛。どんなに短くてもその言葉に必ず驚きがあります。驚きのある作品は、今まで自分が考えたこともなかった示唆を与えてくれます。「えっ、愛って爪の垢!?」みたいな。現代アートの価値は究極的にそこ。
説明文を書く時には、自分でこれが「驚きポイント」だと思うことを書くのです。「えー、そんなネタバレじゃん!」って感じがするかもしれませんが、どちらにしろ作品に詰め込んでいることを一言二言でなんて説明できません。バラしてるのはほんの一部。この言葉の裏に、なぜ治療なのか、治療とはなんなのか、自然治癒とは何か、繋がりとは何か、関わるとはどういうことか。自身のこれまでの人生すべてがこの小さな1ピースと数行の解説に詰まっていのです。画面から見えない部分についての「ヒント」を与える、これが解説文の意図です。
逆に言えば、一言で全部語り切れてしまうなら、言語能力が天才過ぎるか、作品について考えたことがないかのどちらかです。
そんなわけで、こちらの作品もご購入できるので、ぜひ販売ページもチェックしてみてください!
すごく気に入っている作品ですが、売れ残ったら残念ながら全員死滅確定です(笑)作家の手元にも作品は残らず、買ってくれた人のもとにしか存在しなくなる。
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「驚き」をもたせる作品をつくるには、自分自身が常に何かを「発見」しつづける必要があって。だからいつでも飽きずに世界を楽しんでいられる。それがアーティストやってて幸せなことの一つですね^^
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みじんこは、いつも驚いてます!ヽ(=´▽`=)ノ